約束の地 [DVD]

監督 : リサンドロ・アロンソ 
出演 : ヴィゴ・モーテンセン  ヴィールビョーク・マリン・アガー  ギタ・ナービュ 
  • ポニーキャニオン
3.14
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988013389687

感想・レビュー・書評

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  • 数年前に文芸座でなんの予備知識もなく観たときの強烈な印象は忘れられない。角の丸いスタンダードサイズのこじんまりした画面の中に映し出される圧倒的なパタゴニアの原野と、時空を超えて彷徨う魂に、しばらく現実に戻りがたい気分を味わった。
    だがこの映画はただのファンタジーではない。なぜ映画の原題と冒頭に、先住民族の伝説にある、決してたどり着くことのできない伝説の楽園「ハウハ」が置かれているのか。なぜ19世紀末のパタゴニアに、スペイン語やフランス語をしゃべる軍人たちとともにデンマーク人の父娘がいるのか。
    このときアルゼンチン軍は、劇中で「ココナツ頭」と呼ばれるパタゴニアの先住民族マプチェの反乱に対し、彼らを絶滅させてアルゼンチンの権益を確立させるための「砂漠の征服 Conquest of the Desert」と呼ばれる掃討作戦を遂行中だった。デンマークからはこの時期、多くの人々がアルゼンチンに移住し、先住民族から奪った土地に入植している。ヴィゴ・モーテンセン演じるデンマーク人の大尉が技師としてその残虐行為の一端を担っているのは、したがって、北欧の植民地帝国であったデンマークの歴史の一部なのである。
    軍人たちの間では、英雄といわれながら荒野に姿を消し、今や女の姿をして先住民たちを率いているという将軍についての不穏な噂がささやかれており、「決してそばを離れない」犬が欲しいと父にねだる15歳の娘インゲボルグの中にも、荒野に呼ばれる魂が息づいている。軍人の青年とともに荒野に出奔した娘を追跡して馬を駆る父親が口ずさむのは、デンマーク人の乙女を野蛮な敵の手から守ることを誓う軍歌。だが馬と銃を奪われた彼は道を見失い、娘が落とした人形を握りしめ、パタゴニアの原野の中をあてどなく彷徨うことになる。どこからともなく現れた犬に導かれて、父親は洞窟の中で年を経た娘と向かい合い、消えた少女は時空の彼方で目を覚ます。その傍に寄り添う犬は肩に傷を負っている。「理由のわからない出来事」から生じたトラウマの傷は、ずっとついてまわる。
    娘を見失った父に、年老いた少女はいう。家族は荒野に消え去るもの。だが、人生を前に突き動かす力とは何なのか。その問いはなお、時間と空間を超えて響き続けている。

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