- Amazon.co.jp ・電子書籍 (176ページ)
感想・レビュー・書評
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祖父と暮らすツヨシはある日、苦役の末に打ち捨てられた老犬と出会う。清貧のうちに暮らすツヨシは次第に自らの使命に目覚めていく。
「ある晴れた夏の朝」が大変よかった小手毬さん、イヌの話も書いていると聞いてさっそく読みましたが、これは問題作でした。「フランダースの犬のオマージュ」として書かれたと帯にありましたのでそのつもりで読んでいたのですが、これは犬の話でも悲しい少年の話でもなくて、なんと奥平剛士の話でした。途中から革命とかプロレタリアとか出てくるので、どこに連れて行かれるんだコレ、という気分で読み進める緊張感があり、最終的にそんな話になるのかと、めっちゃ騙された感。ちなみに重信房子も出てきます。
それから、この本てまたすごく手の込んだ仕掛けがしてあるな、と思ったのですが、何も知らずに読んだら主人公のツヨシは最後に思いとどまるんじゃないか、という期待で終われるんですよ。でも奥平のことを知ってると、このラストシーンがものすごい葛藤を残すんです。犬の思いは届いたのか、それともやはり届かなかったのか、題名の理由もこの辺でやっとなぜテルアビブなのか明かされるという念の入れようでした。この重層的な読ませ方は小手毬さんらしい、恐ろしい手のこみように思えて戦慄します。
ところで、小手毬さんは他の本でも訴えてるように武力による問題解決を全否定しています。奥平や重信らの行動についても否定的に見ているように感じるのですが、過激に行き着くまでの思想的な変遷に関しては共感している節が伺えます。この辺、どういった考えでこの本の題材としたのか、ちょっと本人に聞いてみたい気もするのでした。
イヌの話を期待した人にとっては最後の章で全部吹き飛ばされるので星4つにしました。でも、読む人によるかもしれませんがインパクト抜群の本でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
清貧な少年と犬の物語が終盤で一気に生々しい物語へと変貌する。
小説の世界に引き込まれ、一気読みしました。