アメリカン・スナイパー [DVD]

監督 : クリント・イーストウッ 
出演 : ブラッドリー・クーパー  シエナ・ミラー  ルーク・グライムス  ジェイク・マクドーマン  ケビン・ラーチ 
  • ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
3.75
  • (35)
  • (72)
  • (45)
  • (11)
  • (3)
本棚登録 : 378
感想 : 57
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4548967231441

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 実在のネイビーシールズのスナイパー、クリス・カイルの伝記を映画化した内容。

    映画としてはさすがの出来だった。けど事実の重みになにをどう書いていいか迷う。
    観た人ならわかると思う。これはイラク戦争を賛美し英雄を描いたものでも、‘戦争は嫌だ’といった生ぬるい反戦映画でもない。戦争によって心を蝕まれた一人の男が苦悩するストーリー。戦いによって人生を書き換えられた人間の話だ。で、あるがゆえに結果として究極の反戦映画に仕上がっている。

    ただ、米国では物議を醸している。イラク戦争を賛美した、いや、クリスは戦争の英雄。的外れな批評だろう。
    これまでイーストウッドは「父親たちの星条旗」や「グラン・トリノ」で戦争によって心に傷を負った男たちを描いている。戦争映画と違うが「ミスティック・リバー」もその系譜に連なる。過去に暴力から受けた心の傷が、その後の人生に大きな影響を与えるストーリー。本作もやってることやテーマは同じ。だから読み間違えることはないと思うんだが。

    映画の出来としては申し分ない。一瞬たりともスクリーンから目が離せない戦場は緊迫のショットの連続だった。不安感を増幅させるような戦車の音響から物語が始まる冒頭。クリス・カイルが爆弾を抱えたイラク少年に照準を合わせたシーンから彼の生い立ちへと続く構成の妙。戦地から戻るたび心の傷が深くなるクリス。その過程を丁寧に描く演出が巧い。

    主演を演じだブラッドリー・クーパーは光っている。虚ろな目。平常でも高い心拍数が傷の深さへの伏線となっている。怒りをコントロールできない荒々しい態度。些細な物音に過剰反応してしまう姿。妻の話を聞いてそうで聞いていない、一点を見つめる心ここに在らずの表情。フラッシュバックする記憶と銃声と叫び声。狙撃手としてよりもイラクから帰還する度にPTSD(外傷後ストレス障害)に苦しむ度合いが深くなる様子が(観ていると胸苦しくなるが)演技によって伝わってくる。

    ひとつ注文を付けるとすれば、イラクのスナイパーと対決するシーン。終盤クリスがイラク側のスナイパーと対決する。クリスが放った銃弾が弾道とともにスローモーションで表現される。どうしてもこのシーンで安っぽい印象を受けてしまった。マトリックスじゃあるまいし。どうしてこんな演出をしたか、監督。と。

    戦場のシーンは緊迫感があった。でもそれ以上に不安感と恐怖を覚えたのが銃後の日常。戦場から妻・タヤに電話するクリス。運悪く銃撃戦が始まる。タヤの電話口から聞こえる銃声。本国にいるタヤは病院から出てきたところ。妻は動揺する。が、タヤの周囲の人々は、日常は、平穏そのもの。まるで戦争など無関心かのよう。戦場と銃後のパラレルワールドのような演出。だが、演出を超えて、世界中で戦争をしているのに本国は平和そのもの。そんなアメリカの現実を映しているようでゾっとした。

    最も怖かったのがラスト近くにクリスがおもちゃの拳銃を妻に向けるシーン。ふざけ合っているだけ。でもどこか不穏で不安感を掻き立てる。心を病んだイラクの帰還兵が起こす無差別殺人は今までに100件以上にのぼるという。一番多い犠牲者は兵士の妻だ。もしかしたらこのシーンはその比喩だろうか。

    映画の内容と関係ないことはレビューに書くべきではないかもしれない。でも、あえて。
    物語で描かれなかったがクリス・カイルを射殺したのは元海軍兵のエディー・レイ・ルース。本作が日本公開された3日後にテキサスの裁判所が判決を言い渡した。
    仮釈放なしの終身刑。 映画が陪審員にどういう心象を与えたかは分からない。
    ルースの半生を追った記事を最近読んだ。テキサス生まれ。クリスと同じ高校を卒業し海軍に入隊。イラクに派遣される。人間扱いされない捕虜に心を痛め、銃を発砲する子供に動揺した。テキサスに戻ると頻繁にパニックに襲われ、深夜に些細な物音で飛び起きる。薬物と酒に頼り自殺未遂を繰り返した。
    ルースも戦争によって心に傷を負い、PTSDに苦しんだ(スナイパーではないがクリス・カイルと同じ)兵士だった。

    事実の重みの前では、本作のレビューを書くのはどこか虚しい。これがすべてフィクションならどんなにいいだろう。

  • 終盤の銃撃戦、拳を握りしめて観ました。
    実話を元にした話なんですね。
    祖国を守るため、家族を守るため。
    でもその先に残るものは?
    「伝説の男」にスポットライトが当たっているけれど、戦争を体験した人の多くがきっと同じ状態になったんだろうと思います。
    ラスト、主人公を殺めた人も元軍人。
    戦争って悲劇しか生まない。

  • 狙撃シーン(イラクでの戦闘シーン)は緊張感がありましたし、アメリカ海兵隊の「強さ」を、ひいてはアメリカという国の「威光」を感じさせるように作られた作品でもあるように思います。
    しかし、激しい訓練を共にした屈強な海兵隊員が弱音をはいたり、一瞬の油断で命を落としたりする戦場の不条理さ、無情さも描かれていますし、主人公クリス·カイルの葛藤(例えば、武器を拾い上げた少年を、友軍を守るために射殺するかどうか)はリアリティがあるように思いました。また、イラクの一般市民宅に押し入る場面など、「正義」の名のもとに乱暴な行為を躊躇わない様子や、新兵いびりなども描いたところは、クリント・イーストウッド作品らしさ、とも言えるのかもしれません。

    戦場に固執していたカイルが「帰りたい」というシーンや、帰国後に家にまっすぐ帰れないという場面などは戦争の「キズ」を感じさせましたが、その後のリハビリの過程で穏やかな生活を取り戻しつつある姿は「ランボー」のように癒えぬ傷を負った退役軍人という姿からは遠く、作られた英雄像とも感じられます。
    特に、ラストシーンで、助けになろうと歩み寄った退役軍人の若者に殺される、という場面。アメリカ史上最強のスナイパーとして軍功でも伝説となった英雄が、救済のために犠牲となるというキリスト教の「イエス」的な立ち位置として描かれることにはなんともいえない居心地の悪さを感じました。

    とはいえ、1人の男の生き様を描いた映画としては十分に見応えのある作品だったと思います。

  • ブラッドリークーパーの迫真の演技、いや、まるでクリスそのもののように、戦争の中で、葛藤し、仲間のために戦う彼の姿に、時折見せる迷い、苦しみに、何度も引き込まれた。

    戦争は大きなくくりではなくて、こうやって葛藤する一人一人がおこすもの。できれば戦争なんてしたくない、平和を望んでいるはずなのに、取り込まれてしまうもの。彼の真っ直ぐな思いが、とてもしんどかった。
    戦争に限らない。今世界のなにかが欠けているようで不安になる。一人一人の命が大切だということに、そんな当たり前のことが、ごく普通のことでありますように。

  • 日常(家族)と非日常(戦場)を往復する「伝説」のスナイパーの苦悩と葛藤を真正面から正確に脚色することなく描いた間違いない傑作。イーストウッドとブラッドリー・クーパーの組合せで駄作なんて有り得ない。メイキング映像も必ず観てほしい作品。

  • なんで殺されたんだろう

  • 壮絶というほかない。砂嵐の中での戦闘シーンは圧巻。
    しかしそういう映像的な凄さだとか以上に重くのしかかってくるものがある。
    クリス・カイル氏の戦績がどうとか、その是非がどうだとか、あるいはこの映画がイラク戦争に対してどういうスタンスだとか、私はそういうことよりも、この映画の鑑賞としては、彼個人の人間的な部分を見つめるべきではないかと思う。クリント・イーストウッドとしても、そういうところを描きたかったのではないかと感じる。
    しかし結末が結末なだけにやはりつらい。

  • イーストウッドの作品は、必ず見ます。重いなあと言う印象。もちろん肯定的な意味です。

  • エンドロールを眺めながらすごい作品を観てしまったと震えました。イーストウッドなんだから、そう単純じゃないのは考えれば分かるのですが、戦争ヒーロー映画だと思ってました、ごめんなさい。

  • イラク戦争で活躍した名狙撃手のお話。実話。

    文字どおり、主人公はアメリカン・スナイパー、敵国兵士を何人も殺し自国兵を救った、米国の英雄。軍人として兵士としてするべき仕事をしたのだと思います。彼の生きた世界で、持ち場での役割を果たした。誰もそれを責められるはずがないと思います。彼はそう思っていないのでしょうけれど、世間の少なくない人が、彼もまたイラク戦争の犠牲者の1人なのだと思っているでしょう。

全57件中 1 - 10件を表示
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×