日経サイエンス 2016年 02 月号 [雑誌]

  • 日本経済新聞出版社
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  • / ISBN・EAN: 4910071150268

感想・レビュー・書評

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  • 特集は「古代エジプトの社会と科学」。
    エジプトのピラミッドといえば、強大な権力を持つ王のため、多くの奴隷が鞭打たれながら作り上げたものというイメージがある。だが、近年の発掘結果からは、労働者たちが決して身分の低い虐げられた人々ではなく、精鋭集団であったことを示唆する結果が出てきている。
    王が眠る棺には天体運行表が描かれており、従来、こうした表は宗教儀式を行うための「時計」として使用されたと見なされてきた。近年、これが天空の地図であり、冥府へ向かう王たちの道案内を果たしていたという新たな説が提唱されている。古代の星の動きをシミュレーションするプラネタリウム・ソフトも改良が重ねられており、こうした「天空図」の意味がはっきりする日も近いかもしれない。
    はるか昔のことが新たな知見で、がらりと解釈が変わる。そんな可能性を秘めるところが歴史のロマンか。

    もう1つの特集は「教育改革に挑む米国」。
    このうちの「テストで学ぶ」とする記事がなかなか興味深い。テストとは通常、学んだことが定着しているかを測る手段である。だが、使いようによっては、知識を定着させることにも役立つという。ある事柄について、何度も黙って教科書を読むよりは、その事柄に関する質問を行い、その答えを「検索」させる。後者の方が知識の定着度が高い傾向が見られたという。
    また、テストの後で、答案を見直し、間違っていた問題に関して、それが概念を理解できなかったのか、ケアレスミスだったのか、聞かれている意味はわかったがどうすればよいのかアプローチがわからなかったかを振り返る。これも成績向上に役立ったという。
    テストを学習手段として使用する場合には、どういった設問が最適なのか、さらなる検証は必要だろうが、着眼点としてはおもしろい。また、ひどい点を取ったときは答案を二度と見たくないと思いがちだが、復習・反省もやっぱり大切というところか。

    ニューススキャンからは「ヘビ毒を無害に」。
    2015年のノーベル医学・生理学賞は、「顧みられない熱帯病」であるオンコセルカ症やマラリアの治療に功績があった人々が受賞した。この「顧みられない」病の中にも数えられていないが、無視できないのがヘビによる咬傷だという。毒ヘビは通常、経済発展の進んでいない地域に多く見られる。毒ヘビに咬まれて死亡する人は20万人近くで、数十万人に障害が残るというのに、対策は十分ではない。国境なき医師団は「顧みられない熱帯病」への登録を求めている。解毒剤の開発を試みているグループもあるが、ヘビ毒は構成が複雑で種によって毒の組成も異なり、易しい課題ではない。さらなる資金増が望まれる。

    ヘルス・トピックから「回転性めまい」。
    バレエダンサーは、何回回ったか見ている人がわからなくなるほどくるくると何度も回ってもふらつくことがない。こうした能力は長年の訓練によるものだが、ダンサーたちの小脳や三半規管を研究することで、ひどいめまいに苦しむ人々の治療につなげようという試みがある。メニエール病などでめまいに苦しむ人は相当な数に上り、既存の治療法が効かない人も多い。ダンサーの脳の解析からは小脳の一部領域でニューロンの密度が低くなっているという。これと同様の状態を理学療法等で起こすことができれば、めまいの緩和につながる可能性もある。

    健康の話題から「姿現す肥満遺伝子」。
    肥満は現代人の悩みの1つだが、有史以来、人類はいつでも肥満に至れるほどおなかいっぱい食べられていたわけではない。飢餓のときにも堪えられるように、私たちの体には「倹約遺伝子」が内蔵されている、という説を聞いたことがある人もいるだろう。少ない栄養分を効率的に脂肪に変換して体にため込むというものである。飽食の時代にはこれが肥満の元になるというわけだ。この説にはそもそもそうした遺伝子が本当に存在するかを疑う批判も多かったが、近年、「倹約遺伝子」=尿酸に関わる遺伝子であることを示唆する結果が出てきているという。もう少し裏付けが蓄積されれば、効果的なダイエット法を考え出す一助となるかもしれない。
    けれど、いずれにしてもダイエットには王道なし。「倹約」経路が判明したとしても、お手軽な対処法はなく、地道な努力が必要となるようだ。

    農業の話題から「オリーブ危機」。
    イタリアのオリーブ園は現在、キシレラ菌と呼ばれる細菌による枯死が問題となっている。菌そのものも問題だが、より問題となっているのは、科学者と農家の間の不協和音である。
    イタリアでは最近、地震予知に失敗したとして科学者に有罪判決が出るなど、科学に対する不信感が強い。農家は長年持ちこたえてきたオリーブ畑が菌の感染に負けるはずがないと、感染した木の伐採や殺虫剤の使用に強く反発する。科学者は封じ込めるためには根本的な対策が必要だと主張するが、説得力がある証拠を示せない。膠着状態の中、感染は徐々に進んでいるようだ。
    もしもイタリアのオリーブ畑が大規模に全滅してしまえば、オリーブ油の一大産地であるだけに、世界的にも影響は大きい。科学者が率直で適切な助言ができるのか、農家は有効な手立てをたて、オリーブ園を守れるのか、事態がよい方向に向かうことを願いたい。

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