書店主フィクリーのものがたり (早川書房) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 主人公が書店長…よし来た!
    以前読んだ『赤いモレスキンの女』の垢抜けたパリジャン店長とは裏腹に、こちらは偏屈で本への評価がやたらと厳しいインド系の店長。序盤の時点で40手前だったが、その扱いにくい性格から何度も年配男性のつもりで読み進めてしまっていた。

    初対面の人間のバックグラウンドを探り、それを脳内で一冊の本に仕上げる習性は活字中毒者のほぼ末期の症状と言える。A.Jフィクリー(以下A.J)とマヤの出会い・生活もまた紡がれていく。A.Jの脳の中ではなく彼らが住まうアリス島の中で。

    ペンに力をこめず流れるように日常が綴られているからか、そこまで感情移入することはなく。登場人物は淡々/サバサバ/ゆるゆるのいずれかで、マヤも子供特有の好奇心は残しつつも年齢のわりに大人びていたからこちらも無駄に力が入ることはなかった。レオン・フリードマンの朗読会やマヤの出自ほかハッとする出来事も挟みはするけど、それらも全部心に溶け込んでいった。

    「私はアイランド・ブックスを心から愛している。(中略)私にとってこの書店はこの世で私が知っている教会に近いものだ」

    A.Jには申し訳ないが彼が好きな英米文学は自分にとっては守備範囲外で、「それって面白いんですか?」と何度も聞きたくなる情けない結果になってしまった。

    A.J自身、章を追うごとに丸くなっていくのが感じ取れはしたものの彼の人あたりというか人間らしさが上手く伝わってこなかった。(そもそも彼をよく理解できていない&自分の心情読解力が貧弱なだけなのかも)
    言っちゃえばイズメイの方がよっぽど人間味があって、心にガンガン訴えてくるものすら憶えた。A.Jには及ばずとも彼女だって本を愛しているのに。

    それでも彼がマヤに宛てた文学作品の紹介とそれにまつわるメッセージが、作中の会話よりも愛情深く感じた。自分の父親が本好きであれば、是非とも受け取りたいくらい。その時には父親が夢中になった英米文学をようやく追ってみようとすることだろう。

  • 翻訳物はどちらかと言うと苦手で、児童文学を除けばクリスティーとドイルくらいしか読んだことがない私。この本は、一万円選書という選書サービスに応募して、先日送られてきたもの。そういう機会でもなければ自分からは手に取らなかっただろうと思います。

    おそらくユーモア溢れるお洒落な会話なんだろうけどその感覚がちょっとわからなかったり、キリスト教が生活に根付いている人たちならではの習慣や考え方がピンとこなかったり、というのが、翻訳小説を苦手と思う原因なのかなぁ?

    この小説もやはり感覚的にわかりづらいな、という点はあったのですが、少しずつ読み進めていくうちに、そういう事は気にならなくなりました。

    妻を亡くし、偏屈に拍車がかかっている、アリス島で唯一の本屋、アイランドブックスの店主フィクリー。ある日酔いから覚めると、個人のコレクションであった高額な本が盗まれ、その騒ぎも冷めやらぬうちに書店に小さな女の子が置き去りにされていているのを発見する。フィクリーはマヤと名乗るその子を引き取ることにするのですが…


    各章の扉に、フィクリーが娘のマヤに向けて本を勧めている手紙があり、マヤへの愛情溢れる文面がとても素敵です。


    『ぼくたちはひとりぼっちではないことを知るために読むんだ。ぼくたちはひとりぼっちだから読むんだ。ぼくたちは読む、そしてぼくたちはひとりぼっちではない。ぼくたちはひとりぼっちではないんだよ』

    『おれは、本のことを話すのが好きな人間と本について話すのが好きだ。おれは紙が好きだ。紙の感触が好きだ、ズボンの尻ポケットに入っている本の感触が好きだ。新しい本の匂いも好きなんだ』


    本好きな人には響く文章ではないでしょうか。


    盗まれた本の謎とマヤの父親の意外な真相に驚きました。
    でもこの本はミステリーではなく、あくまでも愛の話、そして町には本屋が必要だって話です。

  • おもしろかった。読んでいてすごく楽しかった。
    小さな島に一軒の書店の主フィクリーの話。
    彼は妻が事故死して傷心の日々だったのが、書店に置き去りにされた子供を育てることになり、また、出版社から営業にやってきたエミリーと出会い、月日が経っていって、というストーリーだけど、なんというか、事件も悲劇も出会いも恋も結婚も別れも死も、なにもかもものすごく淡々と描かれていて、本当にあっというまに年月が経ってしまう感じ。それがある意味いっそさわやかという感じで、ラストなんかそれの最たる潔さって感じなんだけど、なんか読み終わってみるとちょっとものたりないような気もしたり。まあ、おなかいっぱい、より、もっとたっぷり読みたい、と思うところがいいのか。
    なにより本の話、本にまつわる話、本好きな人のがたくさん出てきてそれがすごく楽しい。島の警察官は本なんて読んだことなかったのが、ジェフリー・ディーヴァーのファンになって、それからフィクリーが「進級」させて、もっと「文学的な」ミステリを勧めるとか。(ジョー・ネスボとか上級らしい。ディーヴァーは初級クラスなのかー、と思った。)
    島の景色はじめ、いろんな描写がなせだか「きらきら」している印象で、すべてがものすごく目に浮かぶ感じ。映画化したらきれいだし、楽しいんじゃないかなあーとか思った。

  • 読書メーターより移記

    とても素敵な読書時間。図書館で借りたけど、買い直すことを決定。

  • 2016年本屋大賞 翻訳小説部門第1位受賞作
    ガブリエル・ゼヴィン著、小尾 芙佐訳

    著者についてはあまり詳しくないのだが、翻訳を行った小尾 芙佐は、アーシュラ・K・ル=グウィン、ダニエル・キース等、数多くのすぐれた作品の翻訳を手掛けた人物として知っていた。

    本のタイトルやブックカバーのイラストそして小尾 芙佐の名前が混然一体となって素晴らしいオーラを放っていたので、本屋で見かけるや否や即購入した。

    普通の方が読んでも充分素晴らしい物語であるが、本が好きな人たちの心にはより深く響く物語ではないだろうかと思う。

    主人公のフィクリーは小さな島で唯一の本屋を営む中年の男性。
    妻を不慮の事故で失ってから心を閉ざし偏屈な人間となってしまっている。
    しかし、ある日、店に幼児の女の子が捨てられていたことから彼の人生が変わり始める。

    フィクリーは、いろいろ悩んだ末、女の子を引き取り育てる決意をする。
    彼は決して器用な人間ではない為、子育てに悪戦苦闘するがその過程で様々な人間たちと関わっていくことになる。そして彼は人間として再生し、新たな家族を得る。
    素晴らしいのは、登場人物たちが結びついていくうえで重要な役割を果たしているのが本であると言う事。
    物語にはかなりつらく悲しい部分もあるが、本の文体はあくまで柔らかでユーモラスである。
    その為、より一層その悲しみが心に突き刺さる。しかし、悲しいだけではなく未来につながる希望や思いなどもあり救われる。

    ただちょっと残念だったのが、各章にの初めに様々な本のフィクリーの書評が書かれているのだがどれも読んだことがなかった事だった。
    将来読んでみたいと思う。

  • 少々頑固な書店主フィクリーさんの物語。本を愛する、本を読むことを愛する人たち。
    所々にちりばめられた文学作品へのオマージュ、本によって巡り逢っていく人、単純な言い回しだけれど、心温まる物語でした。

  • ロードアイランドのアリス島にあるアイランド・ブックスの担当になったアメリア・ローマンは、フェリーの上で前任者のハービー・ローズが残したメモを読んでいる。なかなか状況は厳しい。でも、アメリアは偏屈な書店主を相手にすることが得意だと思っているから、これから会うフィクリーともなんとか出来ると楽観している。それは彼女の人生を変えることになった。

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