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- / ISBN・EAN: 4571487562429
感想・レビュー・書評
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ときは終戦間近の杉並。
子どもたちの集団疎開。田舎を持つものは田舎に戻り、街は人気のない寂しさが漂う私の知らない東京の姿。
原爆や、沖縄や満州、戦火の中で悶え苦しむ余りにも悲惨な太平洋戦争の映画は数多いけれど、空襲警報の音以外はこんなに静かな太平洋戦争時代の映画初めてだ。
物語の軸はこの母の姉との女同士の微妙な共同生活と、年頃の娘への母の複雑な思いと、そして妻子持ちの隣人市毛と里子の許されぬ交流だろう。
そういう意味ではこれば戦争映画というカテゴリーではなく、あくまでも戦況下という特別な条件で描かれた恋愛と人間ドラマだ。
空襲で家と家族を失った叔母に対して対応が淡白な原作とは違い、里子の母蔦枝と叔母の、戦中ならではの人間的なバトル(?)が繰り広げられて、それがとても面白い。
を煌煌と灯すコトの出来ない暗い光の日常を始めのうち淡々と描き、それはリアルではあるが正直暗い映画館で非常に見辛かったのでみ進めるのが不安にはなったが、後半、市毛との交流が加速するにむかい、一気に色合いが変わる。
市毛に一気にハマってゆく里子の心情がスクリーンに広がり、後戻りできない背徳感に溺れるこいうら若き乙女の姿が生々しい。
そして市毛を演じる長谷川博己がセクシーで仕方がない。
正直彼が人気がある理由がイマイチ掴めなかったがこの映画を観て納得。
日本人女がハマる丁度いい色気を持っている。
二階堂ふみの意志の強い、ある意味傲慢ともいえる若い女の役がぴったりだった。
広島や長崎の原爆で多くの罪のない国民が命を失った終戦間際に、それらのことがまるで他人ごとのようにお互いの身体を貪ろうとする2人の自分勝手な欲望の姿は情報社会ではない当時だからこそのリアルであったのだと思う。
この2人の今後は原作にも、映画でも語られていないが、おそらく。市毛は明日にも赤紙が来るやもしれぬ不安の中で里子の若い身体を抱き、やがて何事も無かったように疎開から帰った妻子を迎え入れるのだろう。
一度つけられた炎を消す事も出来ずに燃える里子の想いが悲しくもあり、恐ろしくもあり、最後にモヤモヤとした言い知れぬ不安を抱かせた。
この国の空という題名の中で唯一印象的なのは大森までの道のりで焼け野原になった風景の先にある美しい海と、青い空だったが、この対照的な風景が一つの額に収まるとき、日本はこれから立ち上がれると、僅かな希望を人々に与えてくれたのかもしれないと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示