- Amazon.co.jp ・電子書籍 (222ページ)
感想・レビュー・書評
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プロパガンダは怖いもののように思われているけど本当は
楽しいし面白いし愉快
だからこそ本当に怖い
ってことがよくわかる本詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦時中政府や軍によるプロパガンダ、共産主義や独裁国家によるプロパガンダ、宗教によるプロパガンダ…楽しい娯楽の体裁をとって、見る者に影響を与えようとする意図がある。本当に効果的で恐ろしいプロパガンダは楽しさの中にあることを再認識させてくれた。著者の主張すべてに同意はしないが、深い洞察があり、読んで良かった。
読み始めは少し取っ付きにくい感じがしたが、あっという間に読んでしまった。 -
非常に面白かった。高度情報化社会に住む全人類必読書ではなかろうか。
以前別の本で、戦時中は少女雑誌の乙女イメージまでプロパガンダとして使われたという話を読んで、乙女と軍国主義という、あまりにも遠すぎる概念の合体にショックを受けたものだが、これを読むと色々納得できた。
戦前の日本政府が積極的にプロパガンダを活用していた事が紹介されている。宝塚少女歌劇団まで『太平洋行進曲』(1934年)などという軍国レビューをやってたというから驚きだ。冒頭に引用されている清水盛明中佐の言葉はすべてのプロパガンダの大基本なんじゃないだろうか。
「由来宣伝は強制的ではいけないのでありまして、楽しみながら不知不識の裡に自然に感興の中に浸って啓発教化されて行くといふことにならなければいけないのであります」p. 12
上から教え込むようなのは退屈で反発を呼ぶからレベルが低い。あくまでも楽しんでいるうちに知らず知らずの間に染み込ませるのが上等なプロパガンダ。
そう考えてみれば、確かに、情緒的かつ閉鎖的な、ある意味では、概念にのみ存在する乙女ワールドはプロパガンダと親和性が高い。ついでに言えば、オタクと呼ばれるコミュニティにも同じ性質がある。近年アニメファンが政府与党の「政策芸術」のターゲットになってるようなのも合理的な選択だったのだ。
もちろん、知らず知らずのうちに啓発教化される方はたまったもんじゃないが、本来てんでバラバラである人間集団をまとめて動かしてゆかねばならない(と勝手に思ってる層もふくむ)立場からすれば、かなり使える技術だ。
だから、軍国主義、ファシズム国家、カルト宗教、テロ集団による数々の実例を読みながら、とんでもないなと思う一方で感心せざるおえなかった。なるほどそうくるかと。現実ではこうしたプロパガンダ技術を活用しているのは「危ない連中」だけではないだろうし、そっちの方がより巧みなんだろう。
エンタメはエンタメとして独立した安全な世界だと、純粋に信じていたら足を救われる世界に私たちはいるのだなと、改めて感じた。
しかも、現在啓発教化の対象たる私たちは、地縁はおろか社縁も失い、無責任な政府の言動に無力感を植え込まれ、日々SNSで個別に情報を注ぎ込まれて判断力が低下している。いわば洗脳するのにうってつけな状態に仕上がっているのである。それこそ戦争でもはじまって、ハイテク・プロパガンダで情緒を煽られたらあっという間なんじゃなかろうか。
昔は右翼アーティストだった女性が北朝鮮観光をして、北朝鮮の人たちは幸せだろうなと語っていたのを思い出す。絆に飢えた人々は幻想の絆でも掴もうとするだろう。
後書きにもあるように、だからと言ってすべての裏に陰謀を読むのも神経症になるので気をつけねばならない。とはいえ、本書の結論にあるように、こうしたプロパガンダの技術があり、実際に使われてきたし、これからも使われるだろうという大前提に立って、日々思考実験するための想像力は大事にしたい。 -
20190103
国民にとって楽しいプロパガンダがどうあってきたか、これからどうなりつつあるかという本。プロパガンダというと、お堅い強引なものばかりをイメージするが、戦前戦時の日本においても、娯楽に紛れ混ぜながら、国民自身に教化していく取り組みがなされていたのは正直驚いた。むしろ、戦時中盤以降のストレートなプロパガンダはそれを求める国民によるものなのだろうと想像もできる。
理性的でありたいものだ。 -
「プロパガンダは『楽しく』やってくる。
本書で述べられていることは、これにつきます。
ある方向へ(戦時中なら戦争へ)国民のベクトルを向ける。そのための政治的宣伝(プロパガンダ)は、頭ごなしの強圧的なものでは効果が薄い。
相手の心に入りやすく、自分から望んだ方向に動くようなものが効果的。そのためには「楽しい」と感じさせることが大事。
戦前の日本にはじまり、アメリカ、ナチス、ソ連、北朝鮮、中国、ロシアとウクライナ、イスラム国、オウム真理教、そして、現在の日本。
プロパガンダが、芸術、芸能、テレビや映画、写真誌、アニメといった、その時代や社会での私たちに「楽しい」をくすぐる、様々な娯楽の中に紛れ込んでいる状況が語られています。
戦前の日本の状況が一番印象に残った。
宝塚歌劇、落語や漫才、ジャズ、映画といった様々な娯楽に関わる企業や人々が、軍や政府に忖度しながら半ば自主的にプロパガンダに加担する姿、そしてそれは経済活動的に見て合理的である、という状況は、よくよく注意しないと、いつの時代でも起こりうることだと深く納得した。
もう一度、
「プロパガンダは『楽しく』やってくる。」
忘れないようにしたい。 -
プロパガンダについて、つまらないものではなく面白いものについて記述している。プロパガンダは過去のものではなく、北朝鮮やオウム真理教、イスラム国についても語られている。あと一応萌えミリについても語られていた。
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Amazon Unlimitedに入っていたのでありがたく読ませてもらった。Unlimitedにこのぐらいのレベルの本がもっと入っていてくれてたら良いのに。ゴミの中からまともなものをみつけるのは難しい。
個々のプロパガンダの説明は平易でおもしろい。そこに文句はない。問題なく他人に勧められる涼著だ。
だけど、ちょっと気になった。プロパガンダという言葉は「修正主義」とか「ファシズム」とかみたいに言葉そのものにネガティブな意味合いを持つので、この本での取り上げ方だと広告宣伝はなんでもプロパガンダになってしまう。ナチにソ連に大日本帝国に北朝鮮にオウムだから、言うまでもなくおどろおどろしいので、ザッツ・プロパガンダって言われてもなるほどだけど、そういうことなの? とは思う。 -
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愛国プロパガンダが「楽しい」形で行われる実態について、例を引きながら紹介している
日本の戦中、欧米、東アジア、新興宗教、現代日本の4テーマに分かれて紹介されており、個人的に気になっていた宝塚歌劇団の戦争協力について紹介していたのは良かった。
戦中日本だけで十分一冊の本になりそうな気がするし、掘ればいろいろと面白い物が出てきそうなので、じっくり扱ってほしかった。
欧米は戦前のソ連と戦中のナチスドイツ、アメリカ、そして現代のロシアとウクライナをあっさり紹介したもの。
ロシアとウクライナについても、日本語のツイッターをあっさり紹介しているだけだったので、ちょっと食い足りない感じがある。
外国の例ということで言えば、第二次大戦も良いのだけれど、より現代的なルワンダ・旧ユーゴ・中東についても紹介してほしかった。
東アジアについては、通り一遍の北朝鮮プロパガンダ紹介のほか、中国のプロパガンダも一定のページを割かれている。抗日テーマパーク・八路軍文化園など、興味深い紹介もあったけれど、それが受け手たる中国国民にどう作用しているのかが触れられていなくて気になった。
新興宗教については、色々差し障りがありそうだけど、幸福の科学と創価学会、特に前者には触れられていないので、別の機会にがっつりと解説して欲しい。
最後に、今まで行われてきたプロパガンダの紹介を受ける形で、安倍政権のプロパガンダについても扱われていたけれど、これも急ぎ足で紹介する感じがあった。
政府はもちろんだけど、共産党のメディア戦略も気になる。
総じてプロの著者がコンパクトにまとめてあるので、入門編としては良かったと思う。 -
百田尚樹の『永遠のゼロ』、オウム真理教、北朝鮮、ナチス・ドイツ、ソ連、自衛隊など、様々な素材をプロパガンダの観点から分析。堅苦しい政治宣伝ではなく、楽しい娯楽として大衆に特定の考えを広めることが優れたプロパガンダであると考えられており、逆に我々はそういうものにこそ敏感でなければ、気づいたらいつの間にか取り込まれていたということになりかねない。
ただ、実際には、個人レベルではともかく、集団レベルでは知らず知らずのうちに特定の方向にコントロールされてしまうのを防ぐのは至難であると感じた。プロパガンダを、お約束はお約束として置いておいて、娯楽性を楽しむというのは、お約束をお約束として感知できない人もいることを勘案すれば、危険かもしれない。ネトウヨとか、まさにそういうものに嵌った印象だし。それにしても右も左もプロパガンダばかりだな(苦笑)。