日本軍はなぜ満州大油田を発見できなかったのか (文春新書) [Kindle]

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著者 : 岩瀬昇
  • 文藝春秋 (2016年1月18日発売)
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (178ページ)

日本軍はなぜ満州大油田を発見できなかったのか (文春新書)の感想・レビュー・書評

  • 安全保障のために食料自給率を100%にと言う意見はよく聞かれる。だがエネルギーの自給ができないのに食料自給率だけを高めても有効ではない。太平洋戦争直前の日本政府に明確な石油政策は存在せず泥縄的に南方石油確保策に突き進んだ。同じことを繰り返しているように見える。

    明治も終わりの1908年浅野財閥の浅野総一郎はヨーロッパ先進国同様に原油を輸入し国内で精製する消費地精製主義を日本でも行おうとし保土ヶ谷に製油所を建設していた。一方、日本石油の創設者である内藤久寛は国内石油業者が競争力を失うことを怖れ輸入関税をかけるべきと主張した。後から見れば石油が足りないとする浅野の主張が正しいのは明らかだがこの時は内藤説が取り上げられ、これ以降の日本は石油製品を輸入するしか道がなくなっていく。

    石炭から石油への転換を図っていた海軍だが八八艦隊計画でも石油政策については煮詰められておらず、石油国策実施要項が閣議決定されたのは12年に及ぶ燃料調査会の結論の出ない議論の後1933年である。その骨子は6ヶ月分の民間備蓄、石油業の振興(精製、輸入の許可制)、資源開発(国内、北樺太),代用燃料(アルコール、石炭液化、オイルシェール)だった。石油政策を考えていたはずの海軍ですら後ろ2案は運頼みに近い。

    北樺太の石油開発は日ソ基本条約締結に伴って日本が獲得した。ポーツマス条約で割譲を受けた南樺太だけでなく北樺太も日本の実効支配下にあり、ソ連が求める撤兵は日本が有利に使えるカードだったはずだった。しかし、日本は石油利権について詰めることなく撤兵に合意した。鉱区についても平等に分けるという原則が貫かれたのはまあいいとして、市松模様のように交互に配分するというミスをおかした。当時はまだ地質学の知識は重視されず地上に滲み出るアスファルトなどの兆候こそが最も大事だった。道路を含めたインフラも無い中ソ連はまず日本に試掘させ、有望な鉱区が見つかればその隣を採掘すると言う手に出た。また取り決めに無いことはソ連の法律を適用するとされ、外国人労働者比率を抑えられてしまった。日本は石油欲しさの足元を見られ続けた。日本の北樺太石油に2年遅れて創設された国有企業トラストは日本が原油代金前払いの代わりに必要な資金や資材を投入し事業を開始したがソ連政府の嫌がらせで閉鎖に追い込まれた北樺太石油とは違い順調に生産を拡大し、現在では累計生産量は1億tを超える。最期に日ソ中立条約の締結に伴い、400万円でソ連に譲渡されることになった。当時の簿価でも2500万円はあり、現在のように埋蔵量をしさんに換算していれば総額1億5千万にのぼる。結局日本はまともな交渉ができていなかったことになる。

    満州で日本は石油の発掘を行っていたが当時のやり方は地表に油兆、多くはアスファルトを見つけることから始まる。だが関東軍の調査団は海軍の序列に基づき指揮権、決定権は学者ではなく軍にあった。ソ連国境近くのジャライノールに続き、奉天に近い阜新炭田で油兆が見つかったことからこちらでも採掘を始めたが石油は発見できなかった。大慶に続いて発見された中国三大油田の一つ遼河油田はこの阜新のすぐ近くにある。民間には進んだ技術は有ったが軍部は秘密重視を優先し自分たちで全てを取り仕切ろうとした。もし、アメリカの物理炭鉱専門会社を起用していれば、満州で日本が石油を発見していたかもしれないのだ。

    戦前の日本は石油に関して量と質、両方の問題を抱えていた。経済封鎖にあった日本が量の問題を解決するために考え出したのが蘭印に対する南進だが、質の問題としてはジェット燃料を製造できなかったことだ。結局は規制の隙間を縫って備蓄した燃料で日本は戦争を始めたことになる。南方石油の取得見込み、航空燃料の需用量などいずれも若干27歳の中尉が無理やりぎりぎり足... 続きを読む

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