ミクロ経済学の力 [Kindle]

著者 :
  • 日本評論社
3.86
  • (2)
  • (2)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 87
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (756ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本書は第I部「価格理論」、第Ⅱ部「ゲーム理論と情報の経済学」の2部構成になっている。

    > 理論を説明する際には、「それを使うとどんな料理ができるか」ということを、理論とよく合致することが十分納得できるような現実の事例を提示することによって明らかにする(はじめに p.v)

    と書かれているが、納得できるかどうかは人による。大学教育で数式に多少触れた経験があり、一方でミクロ経済学には触れたことのない私のような読者にとってはこの分野に触れるきっかけとしてはいいかもしれないが、より形式的なテキストで学ぶ必要性を感じた。

    第I部「価格理論」では、予算を制約条件とした無差別曲線の最大値問題からはじまり、生産計画や企業間の均衡といった話題が解説される。
    凸である2変数関数のグラフの概念図とともに説明が進む中で、この分野の慣例なのかもしれないが、どうしても絵が適当に見えてしまう。現実の問題を例として具体的な数値をパラメータとして選択した場合のグラフのプロットは記載して欲しい。
    また、とくに生産計画では労働力と生産性についてなどでは、かなり簡単な関係性を仮定している。仮定が簡単なのはいいが、それによってうまく扱うことのできる問題とそうでない問題の境界が曖昧にでも把握できないと適用は難しい。そういう意味で「現実の事例」からは離れているように感じた。

    第Ⅱ部「ゲーム理論と情報の経済学」は、第I部よりも数式が少なく、感覚的な展開も比較的多い。第Ⅱ部については、より他のテキストをあたる必要性を感じた。
    終章のイデオロギーの話は好みによるが、蛇足であり、さまざまな理論の適用範囲と妥当性を考えることが真摯な態度であって、早すぎる結論は理解の妨げになる可能性があるのでほどほどにしておくべきだろう。

  • 【メモ】
    東大経済学部の有名教授の著書とのこと。Micro Economicsの授業受講前に、経済学の基本を身に着けるために読んだ。

    価格理論モデルは難解で理解しきれていないが、具体的事例も多く取り上げられており、学問と現実社会の繋がりで幾つか気付きを得られた。また、東大の授業さながら官僚を目指す東大生に向けたメッセージが詰まっていると感じた。

    内容は「現実の事象を経済モデル化するが、当事者からは分かりずらい価格理論。一般的な事象を、時間軸における競争者の出方踏まえて分析するゲーム理論。ミクロ経済学の基礎理論の上に流行りのゲーム理論があるため、前者を軽視すべきでない。」というスタンスで、詳細なマクロ経済学の各モデルまで数式も含めて丁寧に説明してくれている。

    纏めとしては、
    公共政策規制撤廃による完全競争状態を作り出し、保証金を払えば国民全員が得するという「厚生経済学の基本定理」という理論に対して、実際には保証が実際に行われなくても、その変化を認める「補償原理」を複数の案件に包括的に当てはめると、長期的には全体最適となる「ヒックスの楽観」
    という決論を持って、社会主義と資本主義のバランスをとって、どのように政策判断(補償)していくのかを思想的課題として読者に問いかけている。

    【引用】
    ◆第Ⅰ部 価格理論
    ・経済学のモデル分析の結果を日常の言葉で解釈しなおしてみることが、経済学を学んで使う上で最も大切

    ・ミクロ経済学が主に扱うのは、多くの人によって共通の理解が得やすい効率性の問題で、パイをどう分けるかという公平性の問題は、国民一人ひとりの価値判断にまかせるという立場をとる

    ・本当に社会の仕組みをよりよく理解するためには、社会科のような実務で役立つ制度的知識と経済学のような理論的理解の両方をしっかりと身につける 必要がある

    ・需要曲線を使って議論を進める高校教科書や初級の経済学教科書と違って、(中・上級の)ミクロ経済学では、市場で観察されるこうした需要曲線の背後で消費者がどのように意思決定を行っているのか、そしてまた市場取引の結果消費者がどれだけ得をするのかを、消費者の最適化行動から明らかにする

    ・現実の事象(サルの歩行)はミクロ経済学の数理モデルを、あたかも解いているように振る舞う。当事者からみると現実離れして見えるモデルが、現実の行動をうまく表す

    ・自由化による利益は損害を必ず上回るので、 損得を差し引きすると日本全体では必ず得をする

    ・経済政策の現場で、消費者の利益を代表する人がいない というのが、日本の大きな問題。国民が「エコノミックリテラシー」を得て、消費者の権利を主張してゆくほかない

    ・厚生経済学の二つの基本定理は、ミクロ経済学において最も重要
    ①厚生経済学の第1基本定理:
     つぎの条件の下では、完全競争市場均衡はつねにパレート効率的な資源配分を達成する。
     条件:(水や砂糖のように)消費量を連続に変化させることができ、かつ消費量をわずかに増やすと効用が上がるような財が、各消費者について一つはある。
    ②厚生経済学の第2基本定理:
    ・各消費者の無差別曲線の上側が凸集合で、
    ・各生産者の生産可能性集合が凸集合で、
    ・いくつかの追加的条件 34 が満たされるならば
    いかなるパレート効率的な資源配分も、適当な所得再分配を一括固定税と一括補助金を使って行えば、 完全競争市場均衡を通じて達成できる

    ・(補償原理)所得の再分配を行わなくても、価格の歪みや競争の制限を取り除く政策を原則として採用し、多くのケースにあてはめてゆけば、国民の多くが長期的には利益を得ることができる

    ・ピグー税率 =限界損失      
    =その財の生産量をわずかに増やしたときに他人が被る追加的な損害

    ・ピグー補助金:最適より過大な生産量から生産量を1単位減らすごとに、限界損失に等しい補助金を与えること

    ・コースの定理:外部性がある場合、
    (1)交渉コストが低ければ、 当事者同士の交渉によって効率的な結果(生産量)が達成できる。
    (2)さらに、消費者の満足が消費者余剰で表示できるときには、外部効果に関する 所有権を誰が持っているかに関わりなく、同一の生産量 が実現できる

    ・各人に公共財の評価額を正直に申告させて、公共財の最適供給を達成させることは可能なのであろうか? このような問題を取り扱うのが、制度設計(メカニズム・デザイン)理論と呼ばれる情報の経済学・ゲーム理論の先端分野

    ・経済政策の大原則: 市場はつぎの三つの欠点がある。
    ①相対的に希少な資源を保有する者に富が集中し、所得分配が不公平になる
    ②公害などの外部性をうまくコントロールできない
    ③公共財を最適に供給できない
    政府が市場に介入すべきなのはこの三つの欠点を補正すべきときのみであり、後は競争的な市場に任せるのがよい。

    ・競争制限・規制政策は、保護された少数の企業に大きな利益をダイレクトに与えるのに比べて、消費者が受ける損失はきわめて多数の国民に広く薄くかかわる

    ◆第Ⅱ部 ゲーム理論と情報の経済学
    ・社会経済の問題を分析するには最大化の原理+「相手の出方をどう読むか」が必要、これを体系的に扱うのがゲーム理論

    ・四つのゲームの均衡と現実の事例  
     囚人のジレンマ、技術の選択、立地ゲーム、道路交通

    ・企業が同時に数量を選ぶ場合(クールノー・モデル)と、同時に価格を選ぶ場合(ベルトラン・モデル)に対して、時間を通じた数量競争の場合を(シュタッケルベルク・モデル) といい、最初に動く企業1を リーダー、あとに動く企業2を フォロアー と呼ぶ

    ・コミットメント:複数の人間がお互い相手の出方をうかがいながら行動する戦略的な状況では、自分の選択の幅を狭め、「最適な行動がとれない」ようにしておくほうが良いことがある。
    ある行動に「コミットする」とは、 その行動 しかとれない ようにするような、 実効性のある仕組み をつくること (例:退路を断つ、背水の陣)
     ・欧州財務危機は囚人のジレンマの実例。それに対して財政制裁をコミットすることで危機再発を防ぐ
     ・テロリストに屈しない大統領、あくの強い政治家や経営者は有益な行動にコミットしている例
     ・最低価格保証ににより、ライバル店へのコミットメントとなり、かえって値崩れを防ぐ

    ・社会には、 融通の利かないルール・法律・官僚制や、おかしな信念に基づいて行動する政治家や経営者 がいるが、ゲーム理論が明らかにするのは、こうした「一見して最適でない」ものにも 一定の合理性がある

    ・隣接するガソリンスタンドの協調:実際にはベルトラン・モデルに従って、「お互いが卸値を付けて、利潤がゼロになる」ナッシュ均衡は目指さない。同じ「価格競争」を同じプレイヤーが繰り返しプレイする「繰り返しゲーム」を行っており、各時点を「ステージ・ゲーム」と呼ぶ

    ・トリガー戦略:①均衡では毎期協調的な行動をとり、②協調が破られると、1回限りのゲーム(ステージ・ゲーム)のナッシュ均衡という悪い状態を永久にプレイするようなくり返しゲームの戦略

    ・情報の経済学が扱う問題は、私的情報(他人にはわからない情報)の性質によって、二つに大別されます:
     ・相手の行動が観察できない場合を、「モラル・ハザードの問題」
     ・相手のもっている情報がわからない場合を、「逆淘汰の問題」

    ・シグナリングの原理:自分にとっては得だが、違うタイプの人にとっては損になる行動(シグナル)をとって、自分のタイプ(私的情報)を伝える行動

    ・シグナリングが働くメカニズム:
     ・シグナル行動にはコストがかかる
     ・本人しか知らない私的情報(タイプ)によって、シグナルのコスト(またはシグナルを送った結果得られる便益の大きさ)が違う
     ・したがって、コストが低い(または便益が大きい)タイプのみがシグナルを送り、シグナルを見るとタイプがわかる
    (事例:配当金、広告、保険の免責、スーツ、角、学歴)

    ・シグナリング・モデルには たくさんの均衡 があり、どのようなシグナルが選ばれるかは社会によって異なる

    ・共同体の論理も市場の論理も、どちらも助け合いを引き出す工夫だが、それをささえる価値観には真向からの対立がある。公共性の追求を行うのが役所

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

東京大学大学院経済学研究科教授

「2018年 『ミクロ経済学の技』 で使われていた紹介文から引用しています。」

神取道宏の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ダニエル カーネ...
ジェームス W....
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×