パノラマ島綺譚 [Kindle]

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  • 2016年5月17日発売
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感想・レビュー・書評

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  • パノラマとは半円形の背景を描いた画面の前に、草木や人形などをおき、さらに照明の効果によって観賞者に広い視野をもつ野外の景色を見ているような感じを与える装置。つまり魚眼レンズみたいな視界だと私は解釈しました。
    この本は一神教を崇拝したり、日本人的慣習を取り入れたりと妙な描写が多いです。
    彼自身神となってこの自然をつくりかえるとこは一神教を考えさせられるし、殺した奥さんを人柱にする風習などは日本を思い出させられます。
    また、後期印象主義の考え方に近い所もあります
    彼らが大自然そのものを着眼しない所とか特に現代的なアートを予感させます。
    主人公の好きなアートを比べてもわかります
    ユートピア物語<架空的な文字の遊戯<古来の華々しい業績(伝記や歴史など)
    現代的なものを順に好んでいることから近代的で未来的のようで幻想的なようなものが好きなのだと感じました。
    汚い下宿の四畳半という言葉からは森見登美彦さんを思い出しました笑笑
    静寂が好きな日本の美学を写してる所や奇妙な生物が全て人間なのもおもしろいなと思いました。
    「人体の曲線に慣れた人間にはこの曲線に及ばない
    曲線に加えられた不可思議な人工的交錯は、醜を絶して不協和音ばかりの異様に美しい大管弦楽を奏している」
    肉体的な曲線を超えた超自然的・人工的な曲線が当時の芸術家などが追い求めた美なのではないかと思いました。「ひとりよがりの退屈極まる代物」と作中から出てきた言葉のようにこの話は芸術家の理解し難い独りよがりの世界観で造られていると感じました

    この本の中で好きな表現は
    ・憂鬱な天然の押絵のような
    ・花火の下ってくる姿は魂も消えるばかりの眺め
    ・生々しい手首の花を開いた真っ赤な切口

  • 作者の類まれなる描写力が遺憾なく発揮された中編。死んだ富豪と瓜二つの顔を持つ男が、富豪に成りすますという筋立で、パノラマ島の過剰なまでに美しい光景が脳に焼き付くようだった。明智くんいつ来んの~と思ってたら、最後似た名前の別人が出てきてびっくり。

  • こまごまとした描写の熱量が、執拗に舐めるような視線を感じさせて圧倒された。病的に魅せられた主人公の目が爛々としている絵が頭に浮かんでくる。
    海では生命が蠢き、陸では人間たちの肉体が蠢いている。何よりも山々の曲線に美を見出しているのが意外だったけれど、この人工物はあくまでもこの異常な場所で見るから美しく見えるのであり、実際は"汚穢で乱雑で不快"でもあるようで、少しホッとした。こういう異様な状況が作り出した麻薬みたいなものじゃないだろうか。
    主人公の死はもっと泥沼の事件や、もしくは悲劇をイメージしていた。そうではなくて悪趣味な理想郷で正しく狂い、花火となって空に散り、パノラマ島の一部となったのが「らしい」と思えて良かった。この綺譚のラストにぴったりで。

  • M県S郡南端(三重県志摩半島か?)の離れ小島を所有する大富豪(菰田源三郎)が癲癇発作のため急死します。埋葬が早すぎたためか死者は甦り、この世に相まみえるのでした。快復した源三郎は<大人のテ-マパーク・パノラマ島>の構想を抱き、一大事業に着手するのでしたが・・・。横溝正史(雑誌「新青年」編集長)に煽てられて連載したという本作は、怪奇と幻想、奇想天外、荒唐無稽な世界で展開する<双子のミステリ->であり、巧妙な殺人事件を解決へと導いたのは、北見小五郎として登場した<明智小五郎>のお手柄の賜物でした。

  • 【書評】パノラマ島奇譚/江戸川乱歩〜今読んでも全く色褪せてない名作、正しい変態ワールドに誘なわれる。
    https://studio-kamix.com/2020/01/31/edogawaranpo/

  • 大正12年から昭和2年にかけて雑誌で連載された作品らしい。そう考えると当時の読者にとってはかなり斬新な作品だったと思う。途中島内の描写は読んでいてかなりダレたがテレビや映画が普及していない時代、衝撃の内容だったと思う。

  • 『孤島の鬼』が傑作だっただけに、大きな期待をしてしまったけども、残念ながらそうはいかなかった。



    圧倒的なパノラマ島の描写は、退屈と感じる人も多そうではあるけれども、人見廣介が今まで何年間も思い描いてきた夢の中を散歩できるのかと考えれば、ちょっと面白い。
    他人の夢の中にはそうそう入れないだろうし。

    しつこく「これを見ろ!これを見ろ!」と言わんばかりの細かな描写と文字の量は、絵の具のようにこの妄想を何度も何度も塗り重ね、大それた罪まで犯し、ついに実現させた、彼の執念を見せつけられているようだった。
    私が途中で「もうわかったから!わかったから!(はよ終われ)」と思ったにせよ、彼の執念がすごかったことは否めない。


    ところが終盤。
    ぽっと出の人物(一応序盤にいるけども)による探偵パートが始まってしまい、彼が得意げに犯罪の証拠を列挙。そして花火のラスト。私は興ざめだった。

    もっと何か、隠された血縁とか、秘密とか、何か驚くべき事実のようなものが……、あると思っていたよ。
    それがあれば、物語がひっくり返って、人見の転落もまだ腑に落ちたのだろうけど……、没原稿や柱といった証拠は、読者にとっては人見の罪の追認でしかないし……、少なくとも私には、そういう衝撃をもたらすものではなかった。
    ただただ、探偵という「理性」の登場によって、パノラマ島が、人見が、「幻想」が、終わった。
    そんな印象だけが残った。


    「赤い部屋」や「人間椅子」を読んだときも思ったのだけど、乱歩は読者を幻想・怪奇に酔わせておいて、そのあと非情にも引っぺがす、ということをやる場合があって、今回もそれと同じような欲求不満を覚える。

    まあでも、タイプはちょっと違うかもしれないなー。
    上の2編は「もっと幻想世界に浸らせてよォ~~意地悪ッ!」という感じ。

    この話は、「せっかく面白そうな世界に浸ってんだから、もっと面白いもん持ってこない限りは起こさないでくれッ!」という感じだと思う。
    面白いものを持ってこなかったから、私はこの探偵に反発心がわいたのか。


    ポーと同様、乱歩は幻想・怪奇と理性(探偵推理)という、相反する性質のものを描いていて、そこが魅力だとも思うのだが、この作品では性質そのまま、一方が他方を打ち消してしまったようだ。

  • どんなに些細な事でも,気付く人はいる.

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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