日経サイエンス2016年9月号

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  • 日本経済新聞出版社 (2016年7月25日発売)
  • Amazon.co.jp ・雑誌
  • / ISBN・EAN: 4910071150961

日経サイエンス2016年9月号の感想・レビュー・書評

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  • 特集は「人工知能」。ディープラーニングによって急激に発展したようでもあり、しかし実用的な自動運転が可能になるにはまだ遠そうでもある。人工知能の夢と現実の現時点でのまとめである。
    「アルファ碁」や「ディープ・ブルー」で囲碁やチェスの名人を負かすまでになった人工知能(AI)。少し前までは、囲碁のように複雑なゲームでは名人に勝つのはなかなか難しいのではないかと言われてきた。それが驚異的に発展してきた背後には、ディープラーニングの導入がある。ヒトの脳に近い複雑な「ニューラルネットワーク」を用いて、とにかく大量の画像やデータを入力して訓練することによって発達する仕組みになっている。そうすることでいくつもの層に特徴を覚えさせる。表層に近い層はざっくりとした特徴を覚え、奥に進むにつれ、より複雑な特徴を覚えるようになる。例えばヒトの顔をいくつもいくつも覚えさせ、1つの顔を見せたときに、多層の「記憶」に照らし合わせて、一番近い人物を抽出する。
    これはある意味、脳というブラックボックスさながら、「何となくこれだと思う~」という感覚に近いようにも思う。
    多くのデータを覚えるのはまた、コンピュータの特異とするところだ。つい先日もIBMのワトソンが患者が罹患した稀少疾患を言い当て、患者が正しい治療を受けることが出来たというニュースがあった。こういうタイプの仕事は非常にAI向きの印象を受ける。

    一方、苦戦しているのが自動運転だ。一昔前のSFアニメではないが、チューブ状などの「専用道路」を「自動運転車」のみが走行するならば、実現はそう難しくはない。これに近いのが高速道路(日本のように混雑した渋滞しがちなものではなく、アメリカの田舎のように対向車も稀にしか来ないようなもの)で、実際にクルーズコントロールでハンドルから手を離しても一定のスピードで車線を維持することは可能になっている。
    だが、現在の一般道路のように、信号はある、対向車が来る、歩行者が飛び出してくるかもしれない、自転車やバイクにも注意を払う必要がある、となると、途端に難易度が上がる。臨機応変に対処して、ブレーキを踏むべきなのか、ハンドルを切るべきなのか、とっさに判断するのは、まだAIには難しい。事故が起きた場合、製造元が責任を取らされるリスクもあり、なかなか高度な自動化には踏み出せない企業も多いようだ。
    運転というのは、意外に複雑で難しい仕事なのだ。

    さて、近い将来、AIに人類が脅かされるかどうか。
    現時点ではそう近いことではなさそうな印象も受けるが、ディープラーニングのめざましい発展を見ると、何か1つブレークスルーが起こると、急速な発展を遂げる可能性はある。注意深く運用し、安全策を採っておくのが妥当ということになるのだろう。

    神経科学から「痒みの科学」。
    夏といえば、蚊。蚊の何が煩わしいかといえば、羽音もそうだが、何よりも「痒み」だろう。痒みは通常、掻けばそのうちに収まるが、人によっては長期間の痒みと戦うことになる人もいる。消えない痒みは想像以上に患者のQOLを下げてしまう。こうした慢性の痒みの治療は、痒みを生む機構が詳細にはわかっていないこともあって、なかなか難しいものだったが、少しずつ、何が起きてているかがわかってきている。かつては、痒みは「弱い痛み」だと考えられたこともあったが、現在ではこの説は否定されており、痛みには痛みを感知する痛覚ニューロン、痒みには痒みを感知する痒みニューロンがあるというのが定説になってきている。だが、痛覚ニューロンと痒みニューロンには、同じシグナルに反応する受容体があり、2つの感覚は密接なつながりがあることがわかってきている。
    「掻いちゃダメ!」と言われながらも痒いままに掻き続け、掻きこわしたことはないだろうか? 痒いときにはなぜ掻くのか? 痒いところを掻かずにはいられないのは、一説によれば、進化の途上で、我々の祖先が刺激性の植物や虫に晒され続けていたからではないかという。こうした刺激を感知したとき、それを振り払う必要がある。さもなければ、刺激性の「有毒物質」に触れ続けることになるからだ。
    いずれにしろ、痒いところを掻きたいという衝動は非常に強く、人が掻いているのを見ても自分も痒いような気がして掻いてしまうほどだ。むぅ、ばりばりばり。

    最後は公衆衛生から少し気になる「ポストエボラ症候群」の話題。
    西アフリカでエボラ出血熱が流行したのは2014年~2016年のことだった。多くの人が犠牲となったが、中に、生き延び、「生還した」と考えられる人がある程度の数いた。
    こうした人々は、何とか回復して、エボラウイルス自体も検出されなくなったとされていた。だが、実は現在、多くの人が後遺症に苦しんでいるという。
    後遺症に苦しむ人々の発症部位・症状には共通点が見られる。聴覚を喪失する、頭痛や記憶障害がある、眼が見えにくくなったり失明したりする、筋肉や関節に痛みがある、等である。こうした症状は、感染時、ウイルスに対して免疫が激しく応答した余波である可能性もある。だが、さらに怖ろしいことには、血液からは検出されなくなった後、眼や脳や精巣といった隠れ家に潜んでいたウイルスが、再び増殖して症状を引き起こしている可能性がある。実際、眼球からウイルスが大量に検出された「生還者」がいるし、回復したとされた数ヶ月~1年後に精液からエボラが検出された「生還者」もいる。
    「生還者」にとっては非常に厳しい状況である。激しい後遺症のためにまともな職に就くこともできず、周囲の人々からは接触を避けられ、再びウイルスを撒き散らすのではないかと疑いの眼を向けられる。1つの事例として、後遺症の重い症状で職を失い、ボーイフレンドに捨てられ、妊娠していた子を死産してしまった女性の例が挙げられている。「ミラクル」と名付けられていたその子が生まれそうになったとき、誰も手助けしてくれる人はいなかった。子が死んだのはエボラのせいかどうかは不明だ。非常に痛ましい話である。
    人畜共通感染症であるエボラは、あるいは、ヒトを主宿主とする適応を始めているのかもしれない。解明・対策が待たれるところである。

  • 幅広い話題。第5の力の可能性が興味深い。人工知能はいまいち。

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