中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌 (NHK出版新書) [Kindle]
- NHK出版 (2016年6月11日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (229ページ)
感想・レビュー・書評
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Amazonのセールで拾った本でしたが、掘り出し物でした。
イスラム教国家での紛争を宗派対立という形の解説で落とし込みがちな日本のメディアの見解にメスを入れているのが良いです。
イスラム圏は、精神的なハードルが高いと思いがちな日本人の発想を、突き崩す良書だと思います。
もし、イデオロギー対立であるとしたならば、ソ連と米国も冷戦が終了していたら、対立も終了していたはず。という部分の記述には納得しました。実態は、帝国同志の抗争であると。地政学的な利害対立の方が、ずっと多いし大きいとも書かれていました。
また、イラン革命は何故起きたか。という部分も分かりやすく説明してありました。1979年の革命だけにフォーカスを当てていても理解できないと。1953年まで遡る必要があると触れてあったことも、今迄のTVやメディアの解説の視点とは違っていました。
米国とイランは共に被害者意識を持っている点が特徴であること。また、ペルシアとアラブは古代から現代に至って戦った事がないことから、イスラエルの敵は周辺のアラブ諸国であって、イランではない。という切り口も新鮮でした。こういう言及をしてくれる日本のメディアが無かったなあと思いながら楽しんで読み進めることが出来ました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「イランがペルシア人の国であり、アラブ人の国ではないという事実だ。」
中東諸国に対するイメージが変わる。
自爆テロは1983年のレバノン首都ベイルートで発生した。
自殺を禁じているはずが、いつしか天国への道のりになった。
石器時代が終わったのは石がなくなったからではない。なら、石油の時代が終わるのは石油がなくなるからではない。 -
2016年6月の状況だけど、非常にわかりやすく整理され、改めて中東で何が起きているのか、この先どうなるのか考えさせられた。
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面白い。
題名は決して大袈裟ではない。英国の欧州連合離脱も、シリア難民が大量に欧州に入って来たこと、フランスやベルギーでISによる大規模テロが連続して発生したことが大きな一因である。日本の株安も、原油安による中東政府系ファンドの買い控えが大きな役割を果たしている。そして、原油安を作ったのは増産を止めないサウジアラビアだ。
「本書では 、複雑怪奇とされる中東情勢をできるだけ平易に解きほぐし 、国際政治のうねりの中に位置づけなおしたい 。サウジアラビアとイランの国交断絶は 、どのような意味を持つのだろうか ?未だ I Sの支配地域が残るシリアやイラクは 、このまま分裂してしまうのか ?アメリカの一極支配が崩れ去った今 、中東を安定化させるのは誰か ?」。
中東の新聞記事は難しい。これは、イスラム教、特に宗派の複雑さに我々が怖気ついてしまうこともあるかもしれない。例えば、昨年のイランとサウジアラビアの国交断絶について、新聞記事を読むとスンニ派とシーア派の宗派争いが原因のような印象を受ける。ところが、本書は「サウジアラビアは人権問題を宗派問題として言いつくろうことで 、少数派であるシ ーア派の抗議の声を無視し続けようとしている 」と分析する。そして、本書は何故そう言い切れるのか、イスラム教の背景や中東史を紐解きながら明快な説明をしてくれる。
面白いと思ったのは、中東で国といえるのは、イラン、トルコ、エジプトだけで、他の国は「国もどき」であると断言していること。軍事大国と言われているサウジアラビアですら国もどきである。そう考えると、中東は理解しやすくなるし、これから何が起きるかすら予想できる。第一次大戦で英仏が設定した国境が溶けてゆくという表現は、当たっていると思う。
自分の中途半端ば理解が、次々と修正されてゆくのは快感ですらある。お勧めの星5つ。