国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動 (文春新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 強烈なタイトルだが、レビューが好評価だったので読んでみた。内容も予想に違わず強烈だった。命懸けで国を守らなければならない戦士の心情が吐露されていて、かなりヘビーな内容だった。

    著者は、元海上自衛隊自衛官(叩き上げの幹部自衛官)で、特別警備隊(特警隊)創設に関わった強者。

    父親は陸軍中野学校出身で、蔣介石の暗殺命令を受けたまま終戦を迎え、戦後も密かに訓練を怠らず、終わったはずの戦争を一人続けていたという。「死刑になるくらいのことでやめるな。やれ!」、「暗殺なんて、簡単だよ。他のいろんなこともやりたがるから、難しくなる」 。著者は、こんな言葉を吐く父親に育てられたという。日体大を卒業した際、「一生不完全燃焼で終わる」ことに耐えられず、内定していた教師の道を捨てて自衛隊に飛び込んだのも、父親から受け継いだ武人の血の成せる技だったのだろう。

    イージス艦「みょうこう」に搭乗していて能登半島沖不審船事件に関わった著者は、「任務完遂に己の命より大切なものを感じ、そこに喜びを見いだせる人生観」を持った精鋭を集めた特殊部隊の必要性を痛感し、志願して特別警備隊の創設に関わっていく。

    創隊から足かけ八年間、特別警備隊に在籍し、自ら厳しい訓練を重ねると共に、隊員たちの指導にも当たった著者は、その後人事異動を期に自衛隊を辞め、これじゃ敢えて治安の悪いミンダナオ島に移り住み、格闘技術に磨きをかけたという。そして、祖国のために命懸けで戦うとはどう言うことか、日本は命懸けで守るに値する国なのか、といった根元的な疑問にぶつかったという(この点については結局、日本らしい奥ゆかしさや、自然と共生する日本人の伝統的な生き方を守りたい、という祖国愛に行き着いたようだ)。

    「優秀じゃない人が極端に少な」く、「モラルのない人が殆どいない」日本の自衛隊は、「隊の大多数を占める下士官のレベルがダントツ世界一」で「大きなアドバンテージ」があるのだという。「要するに戦争とは、その国の底辺と底辺が勝負をするものなのである。だから、軍隊にとってボトムのレベルの高さというのは、重要ポイントなのである」とのこと。大変興味深い。

    また、著者が韓国やラオスの庶民から聞いたという日本人に関する言い伝え、すなわち、日本人は騙されやすく「同じ手口で何度でも騙せる」が「いい気になって騙してると、ある日突然、見境なく殺しに来るから絶対に騙してはいけない」という教えは、日本人の国民性を端的に言い当てている。争いを好まず、我慢し、譲り、妥協し、しかし限界を超えると堪忍袋の緒が切れて無差別の殺戮に走ってしまう国民性、分かる気がする。悪く言えば、鬱屈した内向的性格ってこと。外交下手な訳だ。

    今の自衛隊に、著者のような強者が一体何人いるのだろうか? 隣国との関係が安定せず、いざという時の自衛隊の役割は大きくなるばかり。我々一般市民も時々、身を盾にして職務に当たる必要がある自衛官の立場で物事を考えてみる必要がある。そんなことを気づかせてくれた作品だった。

  • ・3/8 読了.本当に特殊部隊を作った格闘家のような著者の言葉には凄みがある.国の規模で命を賭して守ると思うかどうかは個人の考え方によるだろうけど、愛する人やものを守ろうとする気持ちは強度の違いはあれ誰しも持ってるもんだと思う.

  •  日本海で北朝鮮工作船を追った経験から自衛隊で初めての特殊部隊(海上自衛隊特別警備隊)を創設し、後に辞職してフィリピンの戦場に生きたという著者が半生を語る自伝。国家とは何か、日本とは何かを考えたものでもある。

     元帝国軍人だった父の行動やフィリピンで出会った戦闘員の話、陸上自衛隊で恐ろしく優秀な隊員のエピソードなど、戦闘のプロにまつわる物語として読むととても面白い。自衛隊の訓練の実態や、米軍の特殊部隊が実はそれほど優秀ではない(にも関わらず米軍が世界最強である理由)といった話など、目から鱗なエピソードも多かった。

     タイトルは、公のために命を捨てる覚悟を持つ意味、その価値のある国家とは何かという話に繋がるが、典型的な右翼の国家観だと思う。ただ、少なくともあと何十年かは地球上から国境がなくなることはなさそうなので、彼のような人物も必要だろう。

  • 興味深く読める本。自分の知らない世界を発見できます。

  • 読後感として、映画っぽいというか、リアルな話が殆どだと思われるのに、妙に話がうますぎる感じを受けるくらい、面白い。
    全体を通じて、作者の自分探しの旅の途中で起きた出来事と外国人達との議論により思考が鍛えられていく様が、生々しい筆致で迫ってくる。

    父親が元陸軍中野学校出の暗殺者(実際には殺していない)
    運動が出来て体育大学に推薦で進むも、内からの衝動により自衛隊に入隊。
    周りと本気度の温度差に戸惑いながらも幹部を目指す。
    海上自衛隊で勤務。
    北朝鮮の日本人拉致と思われる漁船と遭遇し取り逃がす。
    特殊部隊設立へ働きかけ
    アメリカ軍と特殊部隊の質への驚き
    (戦争は、その国の底辺対底辺の戦い)
    左遷に伴い退職
    フィリピンのミンダナオ島での弟子というか師匠的な女性との出会い
    米国軍艦での黒人、ネイティヴアメリカンとの議論
    韓国、ラオスでの日本人評価への驚き
    あとがき

    ベースにあるのは利他の精神ではあると思う。

    外敵(ここでは仮想敵国)からどう身を守るかについて、基本思想として暴力を一位に持って来ている印象を受けた(役割に応じた、リアルな体験からそうならざるを得ないのかもしれないが)。これだと、大義のための暴力を正当化しているようにもみえる。

    大多数の人は、国民で庶民に当たると思う、兵士ではない。世界中の大多数の庶民によって、いま、世界的に求められているのは、暴力に訴えない解決策なのでは無いだろうか。
    本の中で、印象的だったのは、戦争で負けた日本が経済でアメリカを攻めたくだりで、戦いの場が血で血を洗う事がなくなった所だ。経済の次はなんだろう?ここに打つ手があるのではないか? 戦争に戻ってしまわせないように努力していく方途があるのではないか?

    何のために死ぬのか?を考えていく上で、「戦争の世紀を繰り返えさないようにするため。」と答えられるような自分でありたい。

  • 読了。
    特殊な価値観、特殊なメンタリティを持つ著者が、それを自認しつつ記した著作。
    なので本質的な共感とはやや距離があるが、深く考えさせられる一冊だった。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
     私は、現在の日本に不満があるし、不甲斐なさも感じている。
     しかし『あなたは日本に危機が訪れたらこの国を守りますか?』と聞かれれば『守ります』と即答するし、なぜ守りたいのかと聞かれれば『生まれた国だからです』と答えるだろう。

     ただし、だ。
     せっかく、一度しかない人生を捨ててまで守るなら、守る対象にその価値があってほしいし、自分の納得いく理念を追求する国家であってほしい。
     それは、満腹でもなお貪欲に食らい続けるような国家ではなく、肌の色や宗教といわず、人と言わず、命あるものと言わず、森羅万象すべてのものとの共存を目指し、自然の摂理を重んじる国家であってほしい。
     たった今も、生きていたいという本能と、この世に残していく者への情に悩み、技を磨き、身体を練磨し、心を整えている者がいる。
     彼らが、自分の命を捧げるに値する、崇高な理想を目指す国家であってほしい。
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • 忘れかけていた、生に真剣である姿勢を考えさせられました。

  • 「最強の軍隊は、アメリカの将軍、ドイツの将校、日本の下士官」と言うジョークが語られていたが、これはビジネスに置き換えても同様だなと。 陸軍中野学校出身のお父上の影響もあるが、筆者の死生観、国家観は、凄みとリアリズムに溢れている。 やはり現場で修羅場をくぐった人間の言葉には、是非を超えた重みがある。 特殊部隊員の実情や、ミンダナオ島の「弟子」が語った数々の言葉も興味深く読んだが、何より、お父上が戦後も蒋介石の暗殺命令に備え続けていたと言うエピソード。驚嘆の一言に尽きる。

  • 海上警備行動発令から特殊部隊創設までの前半は興味深い。

  • 2016/9

  • ほぼ同年代ながら価値観にだいぶ差がある。それでも読んで損はない。非武装平和主義で自衛隊を認めない人にとってもそうだと思う。

    1999年3月自衛隊の最新鋭イージス鑑「みょうこう」は北朝鮮の不審船を発見した。追いついた海上保安庁の巡視船はパラパラと上空に向けて威嚇にならない威嚇射撃をした後帰投する燃料に不安があると引き上げて行った。逃げる不審船に対しみょうこうは127ミリ炸裂砲弾を着弾点を近づけながら威嚇射撃を繰り返し前方50mで船橋窓ガラスが吹き飛んだがそれでも船は止まらない。船を飛び越えて100m先の弾着でようやく船が止まる。

    「止まっちまった」拉致された日本人を発見したら、是が非でも救出しなければならない。だが、無理だ。なぜなら、1回も訓練をしたことがない。防弾チョッキもなく、立入検査隊員達は拳銃を握ったこともない。船が自爆すれば隊員達は全滅する。闇夜の中で行く意味が有るのか尋ねる手旗要員に航海長だった伊藤氏が答える。「つべこべ言うな。今、日本は国家としての意思を示そうとしている。あの船には、拉致された日本人のいる可能性がある。国家はその人たちを何が何でも取り返そうとしている。だから、我々が行く。国家がその意思を発揮する時、誰かが犠牲にならなければならないのなら、それは我々がやることになっている。その時のために自衛官の生命は存在する。行って、できることをやれ」「ですよね、そうですよね。わかりました。」これには伊藤氏の方がめんくらってしまう。それでいいのか?私に反論しないのか?お前は、「ですよね」で行ってしまうのか・・・

    彼らを政治家なんぞの命令で行かせたくない。そしてもう一つ「彼らは向いていない」向いている者はほかにいる。世の中には、「まあ、死ぬのはしょうがないとして、いかに任務を達成するか考えよう」と言う者がいる。向いていない者にこの厳しい任務を強いるのは、日本国として、これを最後にしなければならない。これが伊藤氏が特殊部隊の創設に関わるきっかけだった。

    伊藤氏が自衛隊に入ったのはバブル前、自衛隊はまともな奴のいくところだとは思われていなかった。確かに防衛大学に入れば学費はいらないとか、夜明けの新宿を歩いていると声をかけて来るのが自衛隊の勧誘だとかそんな話はあった。ではそんな自衛隊の実力はどうか。兵力の比較はよく知られているが組織戦闘力の強弱については「バックに国家があるか」「生命を失う気があるか」で比較されることが多い。よく言われるのは生命を失う覚悟がなく、法的な根拠に弱さがある自衛隊の実力は4段階で下から2番目の弱い方だ。上から順に特殊部隊、自爆テロ、通常の軍隊で一番下は海賊。しかし伊藤氏は日本の特殊性により違うと言う。

    日本はトップレベルに特出したものがないが、ボトムのレベルが非常に高い。優秀じゃない人が極端に少ない。モラルのない人がほとんどいない。一般的な傾向として軍隊にはその国の底辺の人材が集まる。だから戦争とは国の底辺通しの戦いなのでボトムのレベルが極めて重要になる。部隊の大多数を占める下士官が優秀な日本は他国の将校からは非常に優秀に写る。アメリカはその逆で下士官はだnめで、特殊部隊の技量も低いと言う。その米軍がが世界最強な理由は兵員の役割を分担して負担を軽くし、システマチックに運用することで交代要員を量産できることだ。

    伊藤氏が自衛隊を止めるきっかけが、特殊部隊創立以来の各国とのコネクションを維持し、そこから得る技術や知識を日本で必要とする後輩に伝えるためだった。そのためには身寄りがない場所で「撃てて、潜れて、平和ボケしない緊張感」が必須だった。そこで知り会って弟子の-本当は師匠のような-若い女性にこう言われて窮する。「あなたの国はおかしい」「掟というのはこの土地で本気で生きる者のために、この土地で本気で生きた祖先が残してくれたもの」「あなたの国の掟は誰が作ったの」「他人が作った掟に従って生きていくような者がこの土地に生きることを、誰も絶対に許しはしないわ。12時間以内にあなたは生き物じゃなくなるわよ」殺害予告だ。「祖先の残してくれた掟を捨てて、他人が作った掟を大事にするような人を、あなたは、なぜ助けたいの?そんな人たちが住んでいる国の何がいいの?ここで生きればいいじゃない。」

    守る価値のある国であって欲しいと言うのが伊藤氏の願いだが、価値観は人それぞれだ。昔から日本は掟や言葉を海外から取り入れて来た。押し付けられた掟だろうが残るものは残り、なくなるものは何れなくなるだろうよ。

  • 海上自衛隊に特殊部隊を創設した筆者が「戦うとはどういうことか。なにを守るために戦うのか」といったテーマで自身の半生を語る本です。生きるか死ぬかの状況下で自らの志を貫徹する精神論、何のために戦い守るのかについてとても深い内省に基づいて考察しています。読んでいて身が引き締まる思いです。平和ボケしている自分を戒める良書。

  • 余りに直接的な問いかけともいえる題名に反応せずにいられなかった。何か思想的な内容だったらかっがりするところだったろうけれど、そのような内容では全くなかった。筆者の体験した究極といえる戦闘訓練を通じて、命をかけるとはどういいことかということが学べる稀有な作品であると思う。

  • 「罰則の軽重ではなく、それを実施する必要性の有無によって、やるべきことを決めろ」

    自衛隊特殊部隊誕生の経緯、そこでの取り組み、著者の考え、それらが自分の中にある「日本」に強く働きかける。

    安易な道徳論ではなく、必要のためには手段を選ばない考えはまさに現場を知っているからだろう。

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著者プロフィール

伊藤祐靖(いとう・すけやす)
元海上自衛隊特別警備隊先任小隊長。昭和39(1964)年、東京都生まれ。日本体育大学卒業後、海上自衛隊入隊。防大指導官、「たちかぜ」砲術長等を歴任。イージス艦「みょうこう」航海長時に遭遇した能登沖不審船事件を契機に、自衛隊初の特殊部隊である特別警備隊の創隊に関わり、創隊以降7年間先任小隊長を務める。平成19(2007)年、退官。拠点を海外に移し、各国の警察、軍隊などで訓練指導を行う。著書に『国のために死ねるか』(文春新書)、『自衛隊失格』(新潮文庫)、『邦人奪還』(新潮社)などがある。

「2023年 『日本の特殊部隊をつくったふたりの“異端”自衛官 - 人は何のために戦うのか! -』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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