サピエンス全史(上) 試し読み増量版 文明の構造と人類の幸福 [Kindle]

  • 河出書房新社
4.13
  • (10)
  • (7)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 329
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (36ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本書が冒険するのは、ホモ・サピエンスの歴史であり、人類の歴史ではない。なぜなら、ホモ・サピエンスは唯一の人類ではないからだ。ハラリは「歴史学は、過去についての学問ではない。変化についての学問である」と述べる。そんな彼は、「認知革命」「農業革命」「科学革命」といった3つの革命的変化を中心に、ホモ・サピエンスの歴史を展開する。(上巻では、このうち「認知革命」と「農業革命」までの歴史を扱っている。)

    ではまず、認知革命とは何か? 人類は認知革命で、次の3つの新しい能力を得た。1.ホモ・サピエンスを取り巻く世界について、以前よりも大量の情報を伝える能力。2.サピエンスの社会的関係について、以前よりも大量の情報を伝える能力。3.部族の精霊や国民、有限責任会社、人権といった、現実には存在しないものについての情報を伝える能力。
    客観的現実には存在しない「虚構」を想像力によって作り出すことにより、ホモ・サピエンスは、集団による協力関係のみならず、多様なゲームを編み出していった。ホモ・サピエンスは繁栄し、他の人類や多くの大型動物を絶滅させ、陸地の支配者となった。

    次に、農業革命はホモ・サピエンスの何を変えたのか? 農業は、ホモ・サピエンスの暮らし方や生活、社会形態を根本的に変えた。まず、食糧の総量が増え、共同体の人口が爆発的に増え、やがては都市や王国、国家などの社会的枠組みを生み出していった。共同体が拡大したことで、神話や法、階級など、想像上の秩序が次々に生み出されていった。ハラリの議論の核となるのが、「客観的」「主観的」と「共同主観的」な秩序・現象の区別である。ハラリ曰く、「共同主観的」なものは個人同士のコミュニケーション・ネットワークの中のみに存在する。そしていったん集団の「共同主観的」な現実になってしまった「虚構」を消滅させるためには、より大きな「虚構」を生み出すしかない。
    そのほか、農業革命によって、ホモ・サピエンスは、時間や数、文字、さらには貨幣などのツールも生み出していった。以上が上巻の大まかな内容である。

    ハラリはとても抽象的なことを、これ以上ないほどわかりやすい言葉を用いて、具体例を織り交ぜながら議論する。とても面白くて、夢中になって読んだ。ただひとつ気になったことがあるとすれば、議論の節々に現れる彼のニヒリズムである。彼の主観的な感情や価値判断は、おそらく下巻のメッセージに繋がるのだと思う。下巻を読むのが楽しみ。
    (2020, 7, 30)

  • 書評サイトで高評価のため購読。以下印象的な箇所のまとめ。

    ・三つの革命が、歴史の道筋を決めた。約七万年前に歴史を始動させた認知革命、約一万二千年前に歴史の流れを加速させた農業革命、そしてわずか五百年前に始まった科学革命だ。
    ・歴史は物語。難しいのは、神、国民国家、有限責任会社という物語を語ること自体ではなく、あらゆる人を納得させ、信じてもらう物語を語ること。
    ・ホモ・サピエンスはあらゆる生物のうちで、最も多くの動植物種を絶滅に追い込んで来た。
    ・小麦は何故サピエンスに選ばれたのか。小麦を作るのは狩をするより大変で手間がかかる。栄養価も少ないのに何故サピエンスは小麦を栽培するのか。狩猟時代より劣悪な生活環境下でも、より多くの人を生かしておくから、小麦はサピエンスに選ばれた。
    ・進化の視点は、個体の苦難や幸福は関係ない。種の生存、繁殖という基準ですべてが判断される。
    ・従来の歴史研究では、食料供給が増えた結果、村落が形成され、神殿ができたと考えられた。まず神殿が建設され、その後、村落が周りに形成され、増えた人口を維持するために食料供給が増大した可能性がある。
    ・鶏、牛、羊といった家畜は、サピエンスとともに繁栄した。極端なまでに惨めな生活をしていても、他の動物より数が増えた。
    ・生物学に自由という概念はない。平等や権利も人間の創作。
    ・生物学の研究は、幸福を客観的に計測する方法を生み出せずにいる。ほとんどの生物学的研究は、快感の存在しか認めていない。
    ・「生命、自由、幸福の追求」は、生物学的は「生命と快感の追求」と言い換えられる。
    ・私達が特定の秩序を信じるのは、それが客観的に正しいからではなく、それを信じれば効果的に協力して、より良い社会を作り出せるから。
    ・アメリカの独立宣言に署名した人の多くは男性であり、奴隷を所有していた。
    ・現代の世界は、自由と平等の折り合いをつけられずにいる。これは欠陥ではない。矛盾はあらゆる人間文化につきものの不可分な要素、文化の原動力である。思考や概念や価値観の不協和音が起きると、私達は考え、再評価し、批判することを余儀なくされる。
    ・キリスト教徒がイスラム教徒を理解したいと思ったら、彼らが大切にしている価値観を探し求めるべきではない。むしろ、イスラム教文化のジレンマ、つまり規則と規則がぶつかり合い、標準同士が衝突している部分を調べるべきだ。イスラム教徒を最もよく理解できるのは、彼らが二つの原則の間で揺れている場所なのだ。

著者プロフィール

歴史学者、哲学者。1976年イスラエル生まれ。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻し博士号を取得。現在、ヘブライ大学で歴史学を教授。『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』。

「2020年 『「サピエンス全史」「ホモ・デウス」期間限定特装セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ユヴァル・ノア・ハラリの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×