いぬの日 (角川ホラー文庫) [Kindle]

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  • 人間社会の中で虐げられた犬たちの復讐。愛されなくなって飼育放棄のような辛い日々を送るヒメと不思議な隕石との出会いから物語は始まりましたが、結末を思うとそれが良い事だったのかは分かりません。しかし最初のままヒメが幸せになれたとは思えないので、何かきっかけは必要だったとは思います。吠えれば邪険にされ、食事すら忘れられ、人間は外に出られるだけ幸せだろうというヒメの不満はもっともですが、石を飲み込み喋れるようになり、ブラッシングで痛い所を伝えられる事、散歩に連れてって欲しいと伝えられる事など最初の頃のささやかな意思疎通ができる幸せを育てていけなかったことは悔やまれます。もしそういう方向に行っていれば違った結末になったかもしれませんが、ヒメはこれまでの仕返しをする事で、悪意には悪意が返ってくるとミコトに言われた道を選んでしまったことは残念でした。ミコトやスズのように飼い主と信頼関係を持つ同胞に黒い感情を抱き、周りを屈服する事ばかり考えているヒメに、寂しそうだと言ったミコトの言葉は重く残りました。それはヒメが雅史を完全服従下においても気持ちが晴れなかった所にも表れていたと思います。
    もうひとつの舞台である動物管理センター職員の視点も忘れられません。檻に閉じ込められている多くの愛情を放棄された犬猫たち。殺処分される日を迎えるまでずっと飼い主を待ち続ける姿には涙を禁じえません。人間の勝手で捨てられ処分される犬たちがヒメによって人間への復讐に走っても、それはさほど不思議なこととは思えませんでした。群れを成し人間に襲い掛かる姿には確かに恐怖はありましたが、そこにいた犬たちの火傷痕や切り傷痕、耳が千切れた様子になんとも言えない気持ちになります。無惨に殺された人間の遺体を前に職員の小高は激高しましたが、管理センターで毎日働いてきた彼が記憶の中にある死んでいった犬たちの姿を思い出し葛藤する所は本当に苦しいです。
    家族の一員として迎え入れられ愛される犬がいる一方で、飼育放棄や虐待の目に遭う可哀想な犬もどこかには必ずいるわけで、人間でも同じような状況はあるかもしれませんが、それでも社会に人権を保障されている人間とは前提からして違う犬たち。お金で売り買いされること自体もそうですが、ペット業界の暗い部分には人間では考えられない酷さがあるでしょう。それでも人間との共生を選んだ遺伝子が犬たちを従順に縛り付ける以上、人間も相応の覚悟を持って接しなければならないと思います。

  • 表紙絵に騙されてはいけない。犬対人のパニックものです。
    シニカルな感じがします。

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