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感想・レビュー・書評
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ドイツ在住の著者がスイスについて語る。
以前この著者の『ドイツ流、日本流』を読んだことがあった。
本のタイトルを見ると日本を持ち上げるだけの本と思われそうだけど読んでみるとやや印象が異なり、スイスの文化や歴史、政治なんかを詳しく知れる。
特に日本と似てる点について近隣他国とどう折り合い付けているかは参考になるなーと思う。
スイス人は自然や景観をとても大切にしていることが良く分かった。
それは特に観光産業の為でもあり、自国農業を守る為でもあり、有事に飢えない為という。
日本のように平地が狭く、経営規模が小さく、採算は悪い。しかもスイスの場合気候にも恵まれていない。
周辺国のドイツフランスイタリアは農業盛んなので関税が無ければあっという間に産業が潰れてしまうため、莫大な補助金で保護しているそうだ。
また、周辺国からの関税撤廃の圧力に対し、EUやWTOとも細かな交渉をし、なるべく自国にとって有利な例外を作る努力をしている。
1940-1945年にヴァーレンという農学専門家の指導で耕作地を18.3万ヘクタールから35.2万ヘクタール、自給率52%から70~80%に増加させた話は印象的だった。
日本だったら特定産業へのテコ入れは批判の的で実現しなさそう。
観光の話もおもしろい。
本書で言及のある旅行・観光競争力レポートで発刊当時は日本は9位と記載あるが、
調べてみたところ2021年は日本が1位だった。
スイスは自国のホテル業を一つの学問にまで高めて学校も作ったりしている。
日本の「おもてなし」の技もサービス業のノウハウとして研修対象にすればよいという。
まったく同感。
星野リゾートの社長の言葉も印象に残ったので備忘のために記載しておく。
「1980年代、アメリカ人は生魚を食べられなかったが、現在は皆、当たり前のように食べている」
「100年後に旅産業は世界で最も大切な“平和維持産業”になっている」
また、ドイツで再生エネの国策が大失敗している話も参考になった。
自分も10年位前にドイツの会社の人に聞いたが、太陽光の会社が乱立しすぎて倒産ばかりしているという話だった。
太陽光発電は安定したベースロード電源にはならないことが分かり、原発停止の為に火力発電所を慌てて建設しているそうだ。
なお、腕時計で有名なスウォッチ(Swatch)の「S」はスイスのSではなく、価格が小さいSmallのSでもなく、SecondのS。
セカンドバッグみたいに「第二の」の意味だそうだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
スイス旅行の思い出濃いうちに、振り返り。 スイスとニッポンの比較、に加えてドイツとの対比が中心。 本当に物価が高かったのだが、スイスフランの強さの理由が少し分かりつつ、知りたかった観光の歴史や自然との営みについては、他書に頼るところなのかなと。
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スイスと日本はよく似ている。だから、スイスのような豊かさを、日本は手に入れられるはずだ。スイスの歴史、文化、産業からその豊かさの秘密を探る。
川口さんの著作は初めて読みましたが、専攻は音楽なんでしょうか。なぜ著作の道に行ってしまったのか、せっかくドイツに30年以上も暮らしてるのにもったいない気もします。本書はスイスの地理や歴史から現在の産業(農業、工業、金融、エネルギー)とそこに孕む諸問題を解説する、スイスの紹介本です。ただ、著者が「似ている」とする日本も見習えば豊かになれるはずだ、という提言書でもあるようです。
前書きからして川口さんの考え方やイデオロギーが漏れ出ているのですが、日本が大好きな方なんですね。日本の出身ですが長い間ヨーロッパで過ごし、振り返るとやっぱり日本が大好きなんだということだと思います。
スイスといえば観光立国ながら永世中立国であり、ゴルゴ13も信頼するスイス銀行を擁する世界金融の要のイメージもあります。それらに加えてスイスの知られざる民族性や黒歴史、EUやヨーロッパ諸国の関係など、観光で訪れるだけでは分からないスイスのディープな部分も紹介していただいて、実に読みやすくてコンパクトにスイスを網羅している本だと思いました。スイス旅行に行く前に読むといい旅ができそうです。
もうひとつ、スイスと対比させて(ヨーロッパ諸国特にドイツをこき下ろし)日本の技術やおもてなしを持ち出しながら、日本にも素晴らしい資質があるのだからスイスのように美しく豊かな国になれるはずだ、と(かなり上から目線で)述べられます。ただし、日本の方に関しては内容はあまりありません。各論では共感できる部分ももちろんあります。
さて、この本が出版されたのは2016年ですが、川口さんは今の日本を見ながら同じトーンでこの本が書けるのだろうかと思いながら読んでいました。川口さんの見ている日本は先進技術で世界をリードし、突出したおもてなし精神で世界中がとりこになる。そんな世界です。ところが今の日本はほとんどすべての分野において世界においていかれる存在に。自慢の先進技術は中国や台湾が追い抜き、おもてなしは身を削ったやりがい搾取で成り立ち、大企業優遇の果てに日本の中間層は破滅に追いやられ、物価は上がるけど賃金はむしろ下がるスタグフレーションにすら陥って今や成長の余力もありません。実はこんなことは2016年当時から言われていたことです。なんなら2000年代からずっと。それがコロナで見事に顕在化しただけです。川口さんはこの間、ドイツでEUのダメさ加減を見て暮らしていたのでしょうから、日本のダメさ加減は目に入っていなかったのかもしれません。本文の中で「隣の芝生はどこまでも青いのだ」と書いている通り、隣の芝生は青い、と渡ったヨーロッパで幾星霜、今度は日本を見てあっちの芝生は青い、と見えてしまっているように思えて、言わんとしているところにはどうしても共感できないし、アゲアゲな日本の描かれ方には少し切なさすら感じてしまう本でもありました。
それから追記でメモしておきたいのですが、1938年のオトポールでユダヤ人を救った件でドイツの文句を突っぱねたのは東条英機閣下だドヤー、とおっしゃってる部分、実際は樋口季一郎にナチのお先棒を担ぐのかと言い詰められてぐうの音も出なかったからですよね。
そんなこんなで随所に日本を過大評価してスイスと肩を並べたがる部分はあれど、スイスという国を一冊にまとめた本としてはなかなかだと思いました。