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- / ISBN・EAN: 4589921404129
感想・レビュー・書評
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若さ故の一途さとしなやかさに感じる爽快感と、人生のままならなさに感じる苦味が絶妙のバランスで配置されていて心打たれた音楽映画。
1985年のアイルランド。
父の失業を機に、学費の安い公立高校へ強制的に転校させられた15歳の少年コナー。両親は喧嘩ばかりで離婚直前だわ、地味な風貌に目をつけられてガラの悪い生徒からはイジメを受けるわ、教師も高圧的に彼を虐げるわで、自分の居場所を見つけられないでいた。
そんなコナーの唯一の楽しみは、兄と一緒にテレビの音楽番組を見ることだった。
彼はある日、学校前のフラットに気怠げに佇む年上の美しい少女ラフィーナに目を奪われる。
彼女の関心と連絡先を引き出すため、出まかせで「自分のやっているバンドのPVに出て欲しい」と声をかけたコナー。
嘘を本当にすべく、彼は学校の同級生とバンドを組むことにする。
始めは軽い気持ちだったけれど、音楽狂の兄ブレンダンの「助言」や「教育」もあり、彼は次第に本気で音楽にのめり込むようになっていって…。
あまりにもトントン拍子に進むストーリーはちょっと出来過ぎな気もします。
けれど、自らを取り巻く、変わらないどころか悪化する現実と孤独に心を痛めながらも、一途かつしなやかに音楽に没頭し、恋にもがく、若さの象徴のようなコナーの初々しい姿には、とても胸がすく思いがします。
コナーが理想の家族とライブを想像する白昼夢のシーンは圧巻の出来。
けれど、単に少年の若さを描いただけにとどまらず、コナーの兄ブレンダンという人間の配置と巧みな描き方が、この映画に特徴的な魅力と奥行きをつくっていると思います。
両親の反対にあってドイツで勉強する夢を諦め、大学も中退し、今はニートのブレンダン。彼は両親にも自分自身にも、鬱屈を抱えている。
そして、何も出来ないまま年齢を重ねてくすぶっている自分とは対照的に、若さのまま突き進む末っ子コナーの眩しさに少なからず嫉妬にも近い雑多な感情を秘めている。
けれど、無邪気で純粋なコナーには、兄らしい情愛をもって、本当にできるう限り真摯に助言をする。
家庭を顧みなくなった両親に代わって家庭におけるコナーの心を支えのは、間違いなくブレンダンとの会話と、彼から無条件に与えられる音楽の知識だったと思う。
ある程度年齢を重ねた人間にとっては、このブレンダンの抱える挫折、鬱屈、矛盾、それでも消えない優しさといった雑多な感情の共存、そして、彼を通じて眺める人生のままならなさには、少なからず共感するところがある気がします。
物語のラストで無謀な行動を取る弟コナーの背中を押してやったのも、父でも母でもなく、兄ブレンダンで…。
ブレンダンの最後の仕草は、叶わなかった自身の夢を弟に仮託したからだったのかと想像すると、胸が痛く泣きそうな気持ちになりました。
106分と比較的短尺な作品なのだけど、人生の機微をしっかり感じられるし、1980年代の音楽の使い方もすごくうまいので、オススメですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
若さに満ち溢れた物語。
当然、バンドと青春は相性が良い。
青春時代に、じめじめ悩んでいて、気を晴らしたいなーと思う時に観ると、前向きになれるような、寄り添い、力になってくれるような映画。
あまりイケていない主人公は、親の勝手な都合で学校を転校させられる。
転校当初はいじめのターゲットになりそうだったりするのだけど、バンドを組むことで仲間ができて、どんどん活き活きした生活になっていく。おまけに好きな娘とも付き合えて。
いわゆるラブコメ漫画のストーリー。
主人公に都合よく物語は進む。
でも、観客がそれを許しちゃう楽しい映画。
現実は、イケてない人はずーっとイケてないもの。
それじゃあ、ほとんどの人間、何も面白くない。
こういう物語で希望を持てないと。
あとは、映画のテンポが良い。
ま、細かいことは置いておいて、こう進むと良いよねーと思ってしまう。映画のテンポに乗っていきたいと思えるところが、職人芸なんだと思う。
テーマとして
親子(親の不和)、兄弟(兄の不遇と兄弟関係)
とリアルによくある鬱屈した暗い背景がある。
だからこそ、その影の部分に対して、物語は希望の光としてより輝くのだろう。
時代設定が80年代。
ロックもパンク以降のニューウェイブが熱い時期。
まだまだ、ロックが発展していく、勢いのある時期。
物語が持つ「希望」の雰囲気と良く合っている。
今の時代だと、ロックは色々出つくしている感じがある。どんなところを詰めるか、いわゆるニッチな戦略になってしまう。
細かい演出が行き届いている(最初にバンド組んだ時のヘロヘロ感など、流石の演出)
だからこそ、安心して観れる。 -
1985年、大不況のダブリン。人生14年、どん底を迎えるコナー。
父親の失業のせいで公立の荒れた学校に転校させられ、家では両親のけんかで家庭崩壊寸前。音楽狂いの兄と一緒に、隣国ロンドンのPVをテレビで見ている時だけがハッピーだ。
ある日、街で見かけたラフィナの大人びた美しさにひと目で心を撃ち抜かれたコナーは、「僕のバンドのPVに出ない?」と口走る。慌ててバンドを組んだコナーは、無謀にもロンドンの音楽シーンを驚愕させるPVを撮ると決意、猛練習&曲作りの日々が始まった。
ジョン・カーニー監督の自伝的な傑作青春音楽映画。
始まりは、あるステキな女の子を振り向かせたかったから。
仲間とバンドの音楽の方向性や曲作りに熱中している中で、音楽で自分の心や気持ちを表現する喜びを知り自信をつけて成長していくストーリーやコナーとラフィーナの恋が瑞々しく初々しい青春物語として描かれていて、ラフィーナへの恋心を背伸びして唄った「リドル・オブ・モデル」やラフィーナへの切実な恋心を唄った「アップ」や染めた髪やバンド活動を否定する先生に対しての皮肉や反抗心を唄った「茶色い靴」やマルーン5のアダム・レヴィーンがこの映画のために作ったコナーやラフィーナたちへの「未来へ向かって進め」というメッセージ性を込めた「ゴー・ナウ」などキラキラした青春物語を彩るキラーチューンの数々、コナーの両親の離婚やコナーの音楽の才能があるのに引きこもりの兄貴とコナーの兄弟愛やコナーの引きこもりの兄貴の才能を伸ばしていくコナーに対しての嫉妬ややりきれない想い、コナーの兄貴がコナーにロックを指南する時の名言の数々「リスクを負うのがロックだ」「幸せと悲しみの間を知れ」など、甘酸っぱさとほろ苦さを味わえる傑作青春音楽映画です。 -
「時間あるの?」
「同じ映画何度も観るの?」
これが僕によくされる質問。逆に聞きたくなるのはまるで反対の質問をしたくなる。徹底的に休みに観る時もあれば、仕事の移動中にディスクを挿入して観るというよりも聞いている場合もある。これはこれで違った感覚が得られる。
それに何度もと言うのは凄く好きな作品は当たり前ですけど、同じ監督で新しいのを観ると以前の作品を観直したりしています。ジョン・カーニー監督の作品はその一つでもあります。「ONCE ダブリンの街角で」で圧倒的な音楽観をもらい、「はじまりのうた」でたくさんの笑顔をもらえた。そして
「シング・ストリート」
https://www.youtube.com/watch?v=fuWTcmjnEGY
舞台は1985年のアイルランドのダブリン。7人の高校生が組んだバンドの物語。1985年と言うと僕自身も高校生であり、作品の中で使用される楽曲はザ・キュアー、a-ha、デュラン・デュラン、ザ・クラッシュ、ホール&オーツ、スパンダー・バレエ、ザ・ジャムなどの曲が使用されています。
観初めて気が付くのは、あれ?この曲知らない?と思う曲が本当に多い。それもそのはず80年代に活躍した作曲家さんや監督自身もオリジナルソングを作っていて今この時代に新しい80’sが聴くことができる。僕らの世代にとってはありがたいというか当時が本当に浮かんでくると思う。 -
気づいたら何故かぼろ泣きだった。
兄貴が、いい兄貴、兄貴を応援したくなる。
最後の歌が愛に溢れる歌で泣けた。 -
SING STREET
2015年 アイルランド+イギリス+アメリカ 106分
監督:ジョン・カーニー
出演:フェルディア・ウォルシュ・ピーロ/ルーシー・ボイントン/ジャック・レイナー
http://gaga.ne.jp/singstreet/
1985年のダブリン、中学生のコナーは、一目惚れした女の子ラフィーナの気を引くためについた嘘を本当にするためにバンドをやることになる。家庭の事情で転校して、ジャイアンみたいな暴力的ないじめっこに絡まれたりしちゃうけど、コナーは意外とのほほんとしてマイペース。内気なのに行動力抜群なのは、あの年齢特有の劣等感と全能感のアンビバレンツかな。まさに中2のコナーが「バンドやろうぜ!」って盛り上がって本当に実現しちゃう過程が微笑ましくも痛快。
ちっちゃいけど機転の利くマネージャーのダーレン、どんな楽器も弾きこなす天才肌メガネギタリストのエイモン、黒人がいるとカッコイイからという理由だけで引っ張り込まれたキーボードのンギグ、その他かわいらしめの音楽おたくっぽいドラムとベースの二人組を加えて、コナーがボーカルを務めるバンド「シング・ストリート」が始動する。みんなそれぞれ、はみ出し者で友達いなさそうなタイプだけど、みんな可愛い。
最初にデュラン・デュランのリオをカバーしたときは死ぬほどヘタッピだった彼らの演奏とコナーの歌が、どんどん上達してサマになっていく経過は単純に楽しくてニコニコしてしまう。エイモンはいかにもバンドに一人はいてほしいオールラウンドプレイヤーで、コナーと二人で曲作りしているのとか、今どんなビッグなバンドもスタートはこういう感じだったんだろうなって、初々しさが眩しくて無闇に泣けてきたり。
ロンドンと英国バンドへの憧れ、80年代のヒット曲は、監督およびコナーとほぼ同世代の自分としてはとても懐かしい。ブラコンのコナーは、挫折して大学中退して今は引きこもりだけど音楽オタクのお兄ちゃんブレンダンを音楽の師匠として尊敬しているので、キュアーをすすめられれば即影響されて翌日にはロバスミ風になっていたり、まあいずれにせよニューロマ全盛の時代だから、今でいうビジュアル系みたいなメイクやファッションで身を固め、今見ると笑っちゃうんだけど、当時はあれがカッコ良かったんだよなあ。でもだんだんそんなコナーくんも垢抜けてゆき、バンドが軌道に乗るにつれて自信をつけてゆく。ラフィーナもメイクがいかにも80年代、とても16歳には見えないけど、そういうの含めてもろもろ懐かしくて愛おしい。
そして何より、このシング・ストリートというバンドのオリジナル曲自体がとてもいい!バラードは泣けるし、体育館で初ライブやったときのPV風のやつとかすごく楽しくてもうそれだけで胸アツ。音楽が好きなら、それだけでこの映画を好きになれると思う。
とはいえ、映画全体としては青春サクセスストーリーなだけではなく、経済不況のダブリン、コナーの家庭の複雑な事情=両親の離婚にまつわるもろもろや、兄弟愛、挫折した兄の視点、孤児であるラフィーナの孤独など切ない部分も沢山ある。コナーとラフィーナのダブリン脱出が無事なしとげられるかどうかはわからないけれど、希望さえ失わなければいくらでも突き進んでいけるんだよ、っていう、彼らの前向きさと輝きがひたすら眩しく、元気の出る良い映画でした。-
こんにちは☺︎yamaitsuさん レビューを拝見して 1年くらい前に観た この作品が鮮烈に蘇りました もう大好きな作品です!青春サクセスス...こんにちは☺︎yamaitsuさん レビューを拝見して 1年くらい前に観た この作品が鮮烈に蘇りました もう大好きな作品です!青春サクセスストーリーでもあるけど 音楽で本当に熱くなれる 素敵な映画でした d(^_^o)2019/02/26
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hiromida2さん、こんにちは(^^)/
コメントいただきありがとうございます。この映画は、ほんと胸キュン青春音楽映画として珠玉の名作...hiromida2さん、こんにちは(^^)/
コメントいただきありがとうございます。この映画は、ほんと胸キュン青春音楽映画として珠玉の名作ですよね!この映画に感動できるピュアさが自分の中にまだ残っていることも嬉しい発見でした(笑)2019/02/27
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『ダーティペア』(原作じゃなくてアニメの土器手版)のことを考えてた(ヘルシェイク矢野)ら、GYAOでたまたま観た『シングストリート』。
今の20代の若者たち、80年代をリアタイで知らない子らが「80年代のアニメはエモい」と挙げてるタイトルを見て、言いたいことはよくわかるけど、なんか違うんだよなぁ…と。わかるけど、当時子供だった私が好きなアニメや主題歌とは微妙にズレてる。好きな曲をいずれリストアップしたいところ。
それで1985年の『ダーティペア』のことを考えていた。芋づる式に思い出すのが、同じサンライズだと『Zガンダム』で、同じ日テレ系だとピンクジャケの『ルパン三世』。頓宮さん繋がりだと『プロゴルファー猿』。
『ダーティペア』はけっこう重要で、プリキュアのルーツでもあると思う。土器手版のケイはピンク髪だけど、安彦版ケイの方(ほとんどレコアか女版アムロw)。
『シングストリート』は1985年のアイルランド・ダブリンが舞台。翌年にコロニー落としをされます。
当時7歳だったからアニメにしか興味なかったけど、デュランデュランが流行ってたのは知っていた。知ったのは『ディスイズイングランド』を観たとき。
当時の音楽って、パンクがすぐNWになって80年代になり、ポップスもほとんどNW化していった頃。クリエイションができたのが83年で、ジザメリの『サイコキャンディ』とか。ザスミスの『ミートイズマーダー』、アメリカだとSSTでハスカードゥの『ニューデイライジング』が出た年…。80年代は良い音楽、ロックはよりアンダーグラウンドになってたんじゃなかろうかと。ただ、当時のイギリスの若者たち、当時のアイルランドの若者たちの受け止め方は、またまったく違う気もしている。
私はNHKの『MUST BE UKTV』をよく観るけど、劇中で主人公たち兄弟も『トップオブザポップス』を観ている。『MUST BE UKTV』は面白くて、TOTP以外にも色んな番組を編集していて、NWの女性ポップス編はエルガイムの13人衆みたいなカッコの人たちがよく出てます。
MTVの最初がバグルスの『ラジオスターの悲劇』で、劇中でヴォコーダーぽくなると言って掃除機のホースを使うのは面白い。バンドあるあるネタも満載。
色んな音楽が混在したそんな状況で、主人公はロックには行かず、あくまでもポップスターを目指す。そしてMVを撮る…という、監督の自伝的作品。ホール&オーツのくだりも面白い。一番よかったのは『バックトゥザフューチャー』のところ(もち1985年公開)。理想が幻想になるMV。
しかし映画として考えると、そんなに良い脚本でも良いストーリーでもないと思う。ベタだし、ただ羅列しているだけ。でも『サマーオブ84』よりは断然良い映画です。
イギリスの音楽青春映画だと、
『リトルダンサー』(2000)
『ディスイズイングランド』(2006)
『パレードへようこそ』(2014)
が、好きです。もちろんその前の『さらば青春の光』(1979)も。これらを観ると、よりわかることが多いかもしれない。
1985年のアイルランド・イギリスって、IRAがまだ激しく活動していた頃だと思うんだけど、劇中ではまったく触れられていなかった(前年にサッチャーを殺そうと爆弾テロをしてた)。
アイルランドの人が言っていたが、移民して出ていく文化がある、それはやはりジャガイモ飢饉とか色々あったからだと。今だにそれはあって、だいたいアメリカに行くことが多いらしい。 -
アイルランド、ダブリン、シングストリート(Synge Street)にあるカトリック系の男子校に転校してきた主人公の少年。少年は学校の向かいの建物に暮らす少女の気を引きたいばかりにバンド結成を思い立つ。その名もシングストリート(Sing Street)。
アイルランドといえばカトリック色が強く保守的(今は知らないけれど)だったことで知られている。校内の雰囲気はすさみ、校長である神父はもちろん保守的で、兄は両親の事情で大学を中退し、両親は離婚でもめている。こうした当時のダブリンに珍しくなかった、鬱屈した状況を象徴するSynge Sreetを歌い(Sing)飛ばしてしまおうというところにカタルシスがある。 -
2016年作品、あまり期待せず見始めたが、どんどん引き込まれていきました。
ダサイ少年が、バンド活動で変わっていく姿が、青春していていい。
特にロックの師匠でもある兄貴がいい味出しています。
バンドのオリジナル曲もいい曲が多く、その点でも素晴らしい。