裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち [Kindle]

著者 :
  • 太田出版
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感想・レビュー・書評

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  • 女の子に寄り添う姿勢が良かったです。女性の貧困がテーマの本には著者の目線が高いところからくるものが珍しくないので。

  • 「これは、私の街の女の子たちが、家族や恋人や知らない男たちから暴力を受けながら育ち、そこからひとりで逃げて、自分の居場所をつくりあげていくまでの物語だ」

    故郷である沖縄の大学に教員の職を得た著者が、当地で若いシングルマザーたちに聞き取り取材を行ったもの。2012年から2016年までの取材期間で、計6篇。巻末には調査記録としてインタビューと読み合わせの日程も掲載されている。また、多くの取材での協力者として、同じく沖縄に密着した社会学調査(『ヤンキーと地元』など)に携わる打越正行氏が同行している。

    取材対象となった十代から二十代前半の若い女性たちは生育環境に問題を抱えるケースが多い。そしてかつてのパートナーで、子どもの父親である男性から暴力を受けた彼女たちは、数少ない選択肢からキャバクラ勤務や「援助交際」によってひとりで子どもを育てる道を選ぶ。他の沖縄関連の著書で示されていた、濃厚な家庭関係、先輩後輩関係の重視、男性を立てるといった当地の特色は、本書に登場するような若い女性たちにとってはハンディとして働くケースが多いように見えた。

    一歩引いた視点から対象を観察するタイプの聞き取り調査とは違い、著者が感情をあらわにすることも珍しくはなく、ときには対象となる女性の問題解決のために積極的に働きかけもする。女性たちが受けた、集団レイプも含む男性たちからの暴力や無責任な態度には憤りを感じ、やはりいたたまれない気持ちになる。同時にただ陰惨なだけではなく、著者とのやり取りなどをはじめとしたユーモラスな場面にはクスリと笑わされ(一部、同行の打越氏のコミカルな描かれ方にも笑う)、ときに現れる彼女たちに手を差し伸べる名もなき人びとの存在や、周囲の援助を受けながら幸福を見出していく過程には心温まる。ときには叙情的な著者の語り口も相まって、感情を動かされることの多い調査記録だった。

    通読して、あとがきにある「私もまた、彼女たちと同じような立場に立たされれば、同じように振る舞うのではないか」という著者の言葉に共感をおぼえる。

  • 琉球大学教授で教育学専攻の上間陽子による、エスノグラフィーまたは生活史(ライフヒストリー)の記録。2012-2016にかけて上間自身が行った、沖縄の風俗業界で働く10-20代の女性への調査に基づいて、対象の約5名の人がどのようにして今の生活に行きつき、どのように生きていこうとしているのかを書いている。この本を読むことで、この本に出てくる数人の女性の人生を少しだけ追体験できる。またその経験から、沖縄特有の貧困や若者が社会的に置かれた状況や、貧困により沖縄に限らず女性が置かれやすい状況を前よりもよく推測することができるようになると思う。また、その状況に置かれた人がどう感じるか、そして周りの人との関係の中でどのような悩みを抱えるかについても少しだけ良い推測ができるようになると思う。また、この本の売上は、強姦された方々のために長く仕事をされている「強姦救援センター・沖縄 REIKO」の活動に寄付されるため、こう言った活動への支援にもなる。

    印象残ったのは、学生への教師の体罰(暴力)の話。教師が学生に愛情深く色々なサポートをしながらも何かあると殴るというような歪んだ接し方が、そういう扱いを受けた学生のその後の人生で暴力の再生産に繋がっている可能性が示唆されていた。

    もしかすると体罰というのは、先生が生徒を殴るその瞬間は、多くの場合、さほど問題がないのかもしれないけれど、暴力が連鎖して弱い人にそのしわ寄せが行くから問題なのかもしれない。例えば、暴力的な悪ガキに対してルールをわからせるために鉄拳制裁しているその瞬間は、殴られた方も意味もわかるし、それで大怪我をすることもないのかもしれない。でも、そうやって殴られて育てられた人が大きくなった時、自分より弱い人に自分の言うことを聞かせるために殴っていいのだと思い込んでしまったらそれは大きな問題になる。

    これが趣旨の本ではないと思うのだが、なぜ体罰がダメなのか、ということについてハッと考えさせられた。

  • 丁寧に話を聞いたんだろうなと。そしてこの現実を私たちは見ないといけないなと。

  • 沖縄のキャバクラで働いている(いた)少女数人へのインタビュー集。ひとりひとりのバックグラウンドや気持ちがわかってくる。
    望まないセックスや妊娠、暴力、家族との関係などが描かれている。
    どうしてこんなことになるのか、どうしたらいいのかといったことは書いていない。それが問題の深さを感じさせる気もするし、学者としての筆者の意見はどうなのか聞いてみたい気持ちになる。

  • 「私たちは生まれたときから、身体を清潔にされ、なでられ、いたわられることで成長する。暴力を受けるということは、そのひとが自分を大切に思う気持ちを徹底的に破壊してしまう」

    暴力の悲惨さがよくわかる文章。
    加害者も被害者もつくらないために、全ての人が、等しく正しい性教育を受けられるようになってほしい。
    おうち性教育の本を読んだあとだから余計に思った。

  • 沖縄の復帰50年ということについて、朝ドラも含め今年は様々なメディアで目にするので、ダイビング目的で何度か訪れたことのある「美しくて楽しい沖縄」ではないところにもたまには目を向けてみようと、図書館で予約。沖縄戦にかかる歴史自体は自分にはとっかかりにくく、この方面から着手。
    小さな意味での社会構造の問題(家族や学校を基点としたコミュニティの問題)はなんとなく理解できるけど、この問題を米軍基地や本土との関係という大きな構造の中でどう考えたらいいのかは、別の勉強が必要だ。つまりトー横キッズとかとの違いという意味において。
    直感的な感想としては、沖縄の男たち、全体的にもっとしっかりしれ←というところ…。

  • インタビュー対象者との距離の近さにまず驚いた。病院に付き添い、出産に立ち合い、悩みがあれば電話を受ける。警察署を抜け出したところで車に連れ込まれてされたりとか、絶望してしまうような物語だったけれど、「起きてしまったことがどんなにしんどいものであったとしても、本人がそれを誰かに語り、生きのびてきた自己の物語として了解することに、私は一筋の希望を見出しているからです」というあとがきの言葉を信じるしかないと思った。

  • タイトルからみて小説のようであったが全く違った。社会学でのインタビューの記録である。岸政彦が100分で名著の番組で推薦していた本である。
     沖縄のキャバクラで働いている女性の働くきっかけを聞くインタビューから、その女性の状況を明らかにしたものである。社会学と同時に教育学の専門家でもあるので、子どもの幼少期の生活も丹念に起こしている。
     フィールドワークについて誰でもができないことをしているので、卒論や修論、博論ではなかなか他ではできないことを書いている。
     それは本人が女性の支援グループで活動していることからできたのであろうとも考えられる。

  • 人間は2年ほどで、歯や心筋の一部などを除き、ほぼすべての細胞が入れ替わる。
    だから身体上はほぼ別人に生まれ変わる。
    誰に触れられたからと言ってもう別人だと思えてくる。

    春菜は、友だちや恋人に知られたら、「汚いって思われる」という不安を繰り返し語った。

    人に過去は必要なのか。過去が今を作るというのは本当か。今の認識を修正すば過去も変えられると思う。


    このとき、春菜は和樹と別れることを決意した。春菜が別れ話を切り出すと、和樹は、「どうせ自分のところに戻ってくる」といった。春菜は和樹のいい方に心の底からうんざりして、「和樹をほうりなげた」。

    和樹は四年間、春菜に客とセックスをさせて、そのお金で生活し続けてきた。その和樹との生活をとことん嫌だと思ったときに、春菜は和樹を捨てた。だが、その春菜をだれも受け入れることがないならば、春菜のそばにいることができるのは、すべてを知っている和樹ひとりしかいない。要するに春菜にとって和樹は、最後の保険のようなものなのだろう。だから春菜は、和樹のことを好きではないと思いながらも、和樹を切り捨てることはできない。

    だからほんとうは、春菜を捜すことはできる。でもそれはやめておこうと私は思っている。

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著者プロフィール

1972年、沖縄県生まれ。琉球大学教育学研究科教授。生活指導の観点から主に非行少年少女の問題を研究。著作に『海をあげる』(筑摩書房)、『裸足で逃げる』(太田出版)、共著に『地元を生きる』(ナカニシヤ出版)など。

「2021年 『言葉を失ったあとで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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