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- / ISBN・EAN: 4910076110571
感想・レビュー・書評
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特集は「坂本龍一」。話題が音楽以外にも広がっていくのが楽しかったのと、ぼくは音楽やってないけど、西洋的な音楽の枠組みや、既存の音の再生環境から逸脱したい話が面白かった。ひとつのジャンルがほかのジャンルを横断していく感覚って最近、好きかもなぁ。
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9年ぶりのソロアルバム「async」を発表し、ワタリウム美術館で本作品に基づくサウンド・インスタレーションである「設置音楽展」を展開した坂本龍一の特集号。
「async」は発表前の情報が極めて限定的であり、公開されていたのは「SN/M比 50%」というメッセージだけであった。「SN比」とは、言うまでもなく、通信理論におけるSignalとNoiseの比率であり、これを技術改良により最小化させることが近代の通信技術の基本的方向であった。
そうしたSN比の一般的理解を他所に置いて、本書の巻頭を飾る坂本龍一へのインタビューにおいて、「SN/M比 50%」のS、N、MはSound、Noise、Musicの略称であったことが示されている。何度も何度も「async」の世界を堪能している自身としては、このワーディングは非常に納得性が高いと感じると同時に、MusicはむしろMelodyとして捉えるべきだという気もしている。
私見となるが、ポスト・アコースティック/エレクトロニカが席巻した20世紀末~21世紀初頭の音楽において、最もラディカルであったのは、「流麗なメロディーよりも、コロコロと転がるような身の回りの物質音の方が気持ちいい」という発見であり、それを電子的に再現したところにエレクトロニカの本質的な価値がある(例えば、Autechreの「Confield」はそうした価値を伝える貴重なドキュメントである)。
「async」では、様々な物音(=Sound/Noise)と、ピアノを中心としたMelodyが実に最適なバランスで配置される。決してここでの坂本龍一の取り組みが実験的なものであるとは思わないが、そのバランス感覚にこそ彼の才能があるのであり、それが「async」を傑作たらしめている。
つまるところ、「Rhythm/Melody/Harmony」というトラディショナルな音楽の3構成要素は、本作では「Sound/Noise/Melody」という3構成要素で語られるべきものである。そして、新たなその3構成要素としての音楽が、決して実験的なものに留まらず、毎日聞きたいと思うような、ポピュラリティを持つ作品に結実したこと、それを”教授”のファンとしては嬉しく思う。 -
特集:坂本龍一