ふたつのしるし (幻冬舎文庫) [Kindle]

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  • 幻冬舎
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感想・レビュー・書評

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  • ほぼ最後まで「ふたりのしるし」がタイトルだと勘違いして読んでいたから、それはいつ、どこで分かるんだろう。。。という変な期待をしながら読み進めてたかも。
    タイトルは、「ふたつのしるし」でした。

    裏表紙に、出会うべき人と出会う奇跡を描いた、心ふるえる愛の物語。

    とあるのですが、まさにそんな感じでした!!

  • 自分を消し他人と同化させることで生き抜いてきた“ハル”と自分のままに他人を意識することなく生きてきた“ハル”。そんな二人の“これまで”が語られやがて運命の日の出会いを迎える。一切の雑音を感じさせない言葉はまるで無声映画を観ているかのよう。静かな静かな物語。

  • 決して主人公気質でない二人、目立たず、人生を変えるほどの大きな不幸もなく、一冊の小説として成立するのか、とも思える。せわしない毎日だが、この一冊を読んでいる間は自然と二人のハルの人生と向き合うことができる。震災が絡み、それを中心に登場人物の思考が見え隠れする。働かない蟻は、なんのためにいるのか。これほど登場人物に寄り添った小説は多くない。

  • ブクログ「ふたつのしるし」
    〇感想(ネタバレあり)
    ・自分が今まで読んだ本の中で究極の恋愛小説だと思います。
    (帯に「出会うべき人と出会う奇跡!! 心ふるえる愛の物語 」とあります。)

    ここからネタバレ注意⚠️)
    最近女性の作家の本を立て続けに読んでいるのですが、前回の「ツナグ」に続きピュアな内容です。

    ・「勉強ができて何が悪い。生まれつき頭がよくて何が悪い」そう思いながらも、目立たぬよう眠鏡をかけ、つくり笑いで中学生活をやり過ごそうとする遙名。高校に行けば、東京の大学に入れば、社会に出れば、きっと―。「まだ、まだだ」と居心地悪く日々を過ごす遙名は、“あの日”ひとりの青年と出会い…。息をひそめるように過ごす“優等生”遙名と周囲を困らせてばかりの“落ちこぼれ”ハル。「しるし」を見つけたふたりの希望の物語。

    ・時代背景は1991年 5月~2011年 3月までの20年間の話
    ・男の主人公、名前が柏木温之(はるゆき)でハルと呼ばれる
    ・小学1年生の頃、団体行動が苦手、蟻の行列をひたすらながめるのが好き。
    ・幼なじみに同級生の健太がいて、みんなと同じ行動ができないハルを尊敬にも似た気持ちでハルは他の人と違うと思っていた。

    ◌女の主人公、名前が遥名(はるな)。学生時代、周りの空気を読まないと自分が不利になる、自分の頭がいいことを人に知られると、不利な立場に置かれるのを回避するために、わざと、ばかっぽいしゃべりかたを身につけ、自分の身を守ることに専念する。ある日
    クラスメイトの里桜に本当の自分を見破られてしまう。そして、ある事件をきっかけに自分を演じるのをやめる。


    ・男のハル、すこし成長して、あいかわらず、勉強も運動も好きではないし、押し付けられるのがいやだった。ひとり地図に夢中になる、何時間でも見ていられる。地図を読みながら人の営みを想像できるようになっていた。そういうハルを馬鹿にするやつらを健太は許さず、いつもハルをかばっていた。
    ・ハルが高校生の頃一番の理解者だった母親が、車にはねられ死んでから、高校もいかなくなり、行くあてのない旅にでた。

    ◌女のハル、大学生になった遥名は周りのキャンパスライフをエンジョイする仲間達ともなじめず、目的もさだまらず無為な日々をおくっていた。
    ◌社会人になった遥名は妻子供のいる上司と不倫関係になる。

    ・男のハル、19歳のころ、同棲していた女に働くようにいわれ、電気工事の会社でアルバイトするようになり、社長に気に入られ社員に昇格する。
    ある日分厚い配線の図面をみて、地図のようにとてもきれいで、無駄が無いと思った。地図に夢中になるのと同じ感覚で図面に夢中になり、頭角をあらわしていった。

    ・◌ある日、男のハルが仕事で屋根裏に上がった会社が女のハルが務めている会社で、仕事をしている温之に遥名が会釈した、他の社員が「遥名さん」と読んだだけで「このひともハルなんだ」と思い温之の目が遥名にくぎずけになってしまった。
    〇遥名、不倫関係だった上司が異動になり別れを告げられ大失恋する。

    〇2011.3 東日本大震災の日、交通は麻痺状態で帰宅困難者溢れるなか、遥名のもとに突然、温之が自転車であらわれ、家まで自転車で送るという。
    いままで、自分の事しか考えていなかったひとたちにまみれ、自分もそのひとりだと思っていた、遥名のそばに、素朴で純粋にみえた温之が『一度、顔と名前しか知らない』というのに、遥名のことが心配で迎えに来たという。


    【温之】「突然来て、すみませんでした」「職場でひどく揺れて気がついたら後先考えずに遥名さんのところへ走っていました。」それは取りようによっては情熱的な告白だった。でも、現実に起こったことが大きすぎて、あまりほんとうらしくない。後先考えずに走っていける相手がいてよかったですね、といいそうになる。とても自分にもかかわる話だという気がしない。青年の行動は、自然で素直な人間らしい行為のようでうらやましかった。

    遥名は青年の名前を聞いた。
    【温之】「柏木温之です」
    【遥名】「どうして私のことを知っているの」【温之】「電気の配線の点検に来たときに、見かけました」
    【遥名】「いつ」
    【温之】「二年くらい前…かな」「しるしがついていたので、すぐわかりました」
    【遥名】「何のしるし?」

    【温之】「遥名さんのしるし。この人だっていうしるしです」

    【遥名】「はあ」「柏木さんは何歳?」

    【温之】「二十六歳です。ハルでいいです。ハルって呼ばれてます」

    【遥名】「私もハルって呼ばれることがあるのよ」「ハルって名前、どう思う?」

    【温之】 「子供の頃は、何も思いませんでした。でも、遥名さんと出会ってから、いい名前だったんだと初めて気がつきました」

    ・遥名を自転車で家まで送り「お茶飲みませんか」といわれ、少し遥名の家で休んだあと、

    【温之】「まだたくさんの人が歩いているでしょうから。困っていそうな人を運ぶ手伝いをしようと思います

    【遥名】「運ぶって自転車で?」「危ないんじゃないかな」

    【温之】「だいじょうぶです。役に立てなかったら帰ってきます」

    【遥名】「待って、じゃあ、せめて何か食べるものを持っていって」

    【温之】「持ってます」

    【遥名】「えっと、じゃあ、カイロ」

    【温之】「持ってます」

    【遥名】「じゃ、そうだ、地図は?地図を持ってると役に立つんじゃない?」

    【温之】「僕は地図を読むのが好きなんです。いろんな道を地図の上で歩きました。実際に、自転車でもずいぶん走ってみました。歩き疲れた人を乗せて運んであげることはできると思います」

    【遥名】「わかった。それじゃ、気をつけて『無理をしないで、自分の身体を大事にして」

    「帰ってきてほしい」と願っている自分が不可解だった。


    〇最終章
    温之の幼なじみの健太が、結婚することになってハルの家に報告に来た。そこに一粒種のしーちゃんが家に帰ってきた。(娘に「しるし」という名前をつけた。)
    ・10歳になった「しるし」が学校で、二分の一成人式をやるということで自分の生い立ちについて、いろいろな人に話を聞いてまとめることになっていた。

    【しるし】「どうしてお父さんと結婚しようと思ったんですか」
    インタビューするみたいに、お母さんにマイクを差し出す真似をする。
    【遥名】「うーん、そうですねぇ」「勘ですね」
    【しるし】「えっ」
    【遥名】「人生には意外と勘が大事です」「たとえば一千万人のデータを見て、分析して、厳選して、一番いいものを選ぶというやり方は、場合によっては重要だろうけど、場合によっては笑止千万」
    【しるし】「しょうしせんばん?」
    【遥名】「笑っちゃうってこと」
    【しるし】「データーじゃないってこと?」
    【遥名】「そ」「靴をみがくしかないのよ」
    【しるし】「どうやったら磨けるの」
    【遥名】たくさんぶつかって、だんだんわかるようになるんだと思う、たぶん」
    【しるし】「たぶんって」
    【遥名】「勘って、ぱっとわかることでしょ」
    【しるし】「だんだんわかるんじゃなくて」
    【遥名】「何の前触れもなく突然ひらめくようなことって、実はそんなにないんだと思うのよ。意識してるかどうかは別として、それまでにいっぱい準備があって、考えたり体験したりしたことの積み重ねの先に、ぱっとわかることがある。それが勘ってものよ」
    【しるし】「ふうん」「それで、どうしてお父さんだったんですか」
    【遥名】「うーん」「あのさ、しるし」
    【しるし】「うん」
    【遥名】「おかあさん、お父さんをみつけたんだ」「お母さんにないものをお父さんがぎゅっと握ってた。お父さんを見つけるまでは、欲しいと思ったこともなかった」「ほんとうに大事なものって自分で見つけるしかないの。自分にしか見つけられないのよ。お母さんはお父さんと会って初めて、自分がな ぜここにいるのかわかった。生まれ育った家を離れてなぜ東京でひとり暮らしてきたのか。なぜあの会社で働いてきたのか。まあ、そういういろんなことが、お父さんと会って謎が解けたわけだ」

    【しるし】心の声(ああ、まどろっこしい。何が謎よ。それって、つまり、好きになっちゃったってこよでしょう。)

    【しるし】「謎で思い出した。おじいちゃんがね」
    【遥名】「おじいちゃんが、なあに」
    【しるし】「遥名さんみたいな人がどうして温之と結婚したのか謎だって」
    【遥名】「うん?」
    【しるし】「あんなによくできた人が、って」
    ……
    ・しーちゃんはお父さんとお母さんのなれそめの話、いろいろ出たけど『生い立ちの記』に結びつかず、普段多くをしゃべらないお父さんがめずらしく自信たっぷりに言い放った。「だいじょうぶ。何を書いたって全部 ”しるし” につながるんだ。お母さんの話も、お父さんの話も、好きなことを好きなようにして書けばいいんだよ」

  • 私も名前にハルがつく。震災の時は大学生で東京にいた。 
    あの日、世界的に失ったものは多いけど、確かにこういう出会いもあったよなぁと。私もここまでドラマ的ではないけど震災をきっかけに選んだ縁があった。
    震災を肯定は出来ないけれど、こういった救いもあったのだろうなと、実話じゃなくても救われた。しるしちゃん、素敵な名前。

  • 112冊目(11-9)

  • 美しい顔を眼鏡で隠し、田舎町で息をひそめるように生きる優等生の遙名。早くに母を亡くし周囲に貶されてばかりの落ちこぼれの温之。遠く離れた場所で所在なく日々を過ごしてきた二人の“ハル”が、あの3月11日、東京が出会った―。何度もすれ違った二人を結びつけた「しるし」とは?出会うべき人と出会う奇跡を描いた、心ふるえる愛の物語。

  • 優等生の遥名と変わり者のハル。正反対に見えて、すごく似ている。世界に星の数ほどある「当たり前」を当たり前にできない、けど、そんな世界に背を向けることはできない。この世界に65億人いる「わたし」のうちの誰か2人の物語なんだな、と思った。遥名もハルも、ドラクエのヒーローにはなれないんだよね。でも、確かにそこには物語がある。東日本大震災大震災の時、確かビートたけしさんだったと思うんだけど、「1000人が死んだ事件じゃなくて、1人が死んだ事件が1000件」って言ってたのを覚えてる。2011年3月の話は、震災にあって、東京の2人が困った話じゃないですか。たくさんの人が帰れなくなった、じゃなくて、遥名と後輩が帰れなくなって、家まで歩く。帰宅難民って言葉で一括りにするんじゃなくて、彼女達の小さな苦難、もしくは冒険の物語。そして遥名はハルに出会う、正確には出会ってるんだけど、個人を認識したという意味で「出会う」なんだけど……。ハルの「しるしがついていた」は、すごく運命的で、ロマンティックな言葉にも聞こえると思う。しかも3.11で帰りあぐねてたところで!正直惚れるやろ!って思ったんだけど、第6話を読んで、あ、これは、人生の轍、歩き方や姿勢や考え方や、そんな、本人からしたらわからないような些細な部分に現れる、その人の生き方のことなんだろうなって腑に落ちた。「何を書いたってしるしにつながる」どんな生き方をしても、それがその人の「しるし」になる。わーー!生の全面的な肯定だ!!!って一回本を閉じました……笑 FFならNPCかもしれない2人を地球の真ん中にすえた、人間讃歌だ。宮下先生の本はあまり読んでなかったんだけど、機会があったらもう少し触れてみたいと思いました。

  • 一つ一つのエピソードが描き切られず、重要なところだけぽつりぽつりと記されている感じが、人生のスクラップブックみたいだった。独立していた2つの要素が絡み合って、小さなピースも繋がるのが、読んでいて良かった。

  •  読み始めから、なんだかよくわからない。この二人がどう繋がるのかが、まったく見えない。

     二人が巡り合っても、なんとなく唐突な感じでした。

     最後はほっこりと終りましたね。

  • おもしろかった。読んでよかった。

    二人ともがそれぞれに生きづらさみたいなものを感じながら、心のどこかで折り合いをつけて成長してきた後に、運命的に出会って結ばれる…しるしはよかった。

    二人に共感できるかというと、全てがそうでもない。それでも、よかったと思えたのは、なぜかしら…?

    持ってるものをきちんと見つけてくれる人に出会った運は大きい。
    さらに、二人の出会いも、遥名がハルの温度(思い)に一気に近づくのが、なんかいい。

    読んだ後に、よかったなと思える、理想の本。

  • ふたりの「ハル」のお話。
    宮下奈都さんの話、好きだなぁ。

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著者プロフィール

1967年、福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、第3子妊娠中に書いた初めての小説『静かな雨』が、文學界新人賞佳作に入選。07年、長編小説『スコーレNo.4』がロングセラーに。13年4月から1年間、北海道トムラウシに家族で移住し、その体験を『神さまたちの遊ぶ庭』に綴る。16年、『羊と鋼の森』が本屋大賞を受賞。ほかに『太陽のパスタ、豆のスープ』『誰かが足りない』『つぼみ』など。

「2018年 『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。   』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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