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感想・レビュー・書評
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記憶は風化する、恐怖はよみがえる。
ゲーム『学校であった怖い話』の制作と並行し、原作者飯島健男(現:飯島多紀哉)氏が執筆した同名小説のKindle化作品になります。
ゲームの再現を狙ったか、語り部一人一人の担当話で分冊化、あの懐かしき流れを思い出すこと請け合いです。
ちなみに元々の作品では『藤丸地獄変』のキャラクターデザインなどを務められた南部佳絵(現:南風麗魔)さんが挿絵を担当されています。
厳密に言えば、この作品は十年前から飯島氏が「アパシー・シリーズ」として銘打ち第一弾としてPCゲームとしてリリースした流れを汲んで紹介すべきでしょうか。
正確にはそのPCゲームを再移植したってのが感触的には近いかもしれない、らしいです。
当時のPCゲームでイラストを担当された『芳ゐ(現:芳井波)』さんによって絵に装いを変えた語り部(+主人公プラスアルファ)は改めてファンに対して多様な解釈を提示しました。
新堂さん髪型変わってる! 福沢がかわいい! 細田はうん、……変わってないね、など。
耽美でありながら、非人間的で落ち着いた色合い、歪んだ情動が凝ったように思わせる絵は私も好きです。
ともあれ、この作品は当時の飯島氏がゲームで表現できなかったことの幾割をも全力投入されただけあって、相当強烈な作品に仕上がっています。
簡単に言えば、一本道の小説であるのにひょっとしたら、あればこそ攻撃性が跳ね上がっているんです。
各話を担当する語り部から向けられる悪意は、主人公とシンクロする読者におよび、とうとう七話目では……。
この巻はとある作中人物を示唆した謎めいた章「ワタシの人形」、および主人公「坂上修一」がなぜ七不思議の集会の進行役を務めることになったのかの経緯を語る「オープニング」、新堂誠が語る第一話「高木ババア」によって構成されています。
正直に言えば、この第一話の挿絵が直接的な残虐性で言えば七話中最大なのでこの話を突破できれば、あとは大丈夫でしょう。一話は無料ですし、その辺は良心的。
生理的嫌悪感、心の奥底の狂気を剥き出しにするような話はドカドカ控えているので油断はできませんけどね。
高木ババアの話は当初はオーソドックスな都市伝説の話題から展開します。
ただし、情報量を増やし、描写の密度を上げてきているのでこの時点でも結構嫌らしいです。
「高木ババア」が何なのかってのは詳細に語られて来歴もわかっているんですが、結局最後まで読んでアレはなんだったんだ……って思わせる構成が組まれていたりもします。
矛盾するようですが、事実だから仕方がない。
話自体は単純なだけに語りがこっちの思考を読んで先回りしてきます。逃げ場を潰してきます。最上級生ゆえの微妙に高圧的な姿勢で、です。
ネタばれはしませんが、忘れたくても忘れられないよう二度、三度に渡ってある仕掛けを打っているのもこの手の話としては嫌らしいポイントです。
……それでもおそらく、第一話ということもあってこの第一話が一番わかりやすく優しい方ですね。
ホラーと言ってもオチは必要だと思うのですが、その辺も明瞭ですね。
話自体はここまで。
あと、Kindle向けにあとがきが書き下ろされています。内容は当時執筆に至った経緯について、当時の裏話、今後の展開についての抱負、など。
熱心なファンとしての贔屓目も入るとは思いますが、Kindleは確かに読みやすいので、何度も読み返したこの小説、またまた読めてしまいました。
一話ごとにあとがきが収録されているので飯島さんはあとがき魔人を目指すのかもしれないな、と戯言を思いつつ紹介感想を終えたいと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示