男が痴漢になる理由 [Kindle]

著者 :
  • イースト・プレス
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感想・レビュー・書評

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  • 『女性の痴漢被害をなくすのは男性側の責任』というのは全くその通りですし、クリニックで取り組まれているプログラムなど様々な工夫は読んでいて勉強になりました。

    私も依存症や触法精神障害者の臨床をやってきましたが、自分の臨床経験から社会を語ってしまうのにはもう少し慎重であるべきだと思います。また、著者の男女観はある種の現代のステレオタイプで認知の歪みを感じます。実際に臨床で様々な経験をすると、男はこういう生き物、女はこう、父親はこう、母親はこうなんて言い方は出来ないですよ。臨床は個別具体的な要素も大きいのに十把一絡げに属性で人間を語ってはいけないです。結局、疾患として捉えるのか、本人の責任が大きいのか、それとも社会の責任なのかという点も今ひとつ整理されていませんし、正直な印象としてこのテーマを語るには著者は勉強不足だと思います。

    積読本一掃キャンペーン中なので頑張って読みましたが、積まれる側の本にも責任あります。

  • 真面目で趣味の無い男が痴漢になる

    【感想】
     都市化・資本主義・男性の持つ支配欲が生み出してしまった犯罪が痴漢なんだな。痴漢が常習化するのは簡単に言うと以下のよう。
     
     「都市であくせく働く。上司からはいつも叱責される。忙しくてこれといった趣味もない。あーむしゃくしゃする。イライラしながら満員電車に乗って通勤する。その時、電車が揺れて、事故的に前の女性に手が当たってしまう。その時、電撃が走ったように感じ・非常に興奮を覚えた。次の駅に着いたとき、女性は何事もなかったのように降りていった。」
     
     筆者に言わせると、「男性の全員には支配欲・加害性が備わっており、それが性犯罪の原因」らしい。私は男性だが、まぁ、確かにそうだな、と言わざるを得ない。もし、男性に支配欲が無ければ、事故的に電車の中で女性に触れることがあったって、そこで異常な興奮を感じることなど無いし、ハマることなどない。だから、女性→男性への性犯罪は極端に少ない。しかし、男性は女性を支配することに喜びや興奮を覚えてしまう生き物であって、だから痴漢という行為が発生してしまう。ポルノ作品のラインナップを観れば、どの男性にもそういう欲望・希望があることは明らか。ただ大抵の男性は、そのような欲望は社会性・理性によって抑え、平穏に生活している。ただ、仕事に追いやられ、ストレスへの対処方法を知らない、趣味もない男性は女性を支配することにハマってしまう。

     痴漢も現代の働きすぎ・効率至上主義の都市が生み出してしまった犯罪で、悲しくなった。最終的に被害を被るのはいつも弱い立場の人である。本書でいえば「おとなしそうな女性」である。
     リモートワークの浸透で満員電車の数はかなり減っただろうし、鉄道会社は混雑状況にあわせたダイレクトプライシングの検討を始めているらしい。図らずも、2020年以降は満員電車の数が減って、痴漢の数が減るかも。 
     
     自分も性犯罪者にならないよう、スポーツなど健全な趣味を今のうちに身に着けておきたい。

    ※追記
     まぁ、ホモ・サピエンスが誕生してから現代に至るまで、性犯罪はずっとあっただろうな。資本主義のせいにするのは違うか。男性の支配欲・加害性がいかに暴走しないような社会システムを構築するかが大事だろう。その点を考えれば、現代は100年前に比べてはるかによくやっているだろうな。

    【本書を読みながら気になった記述・コト】
    ■被害者女性の9割近くが泣き寝入りをしている ※2010年の警察庁のアンケートによる

    ■性犯罪者のほとんどはどこにでもいるごく普通の男性
    >家庭を営み、家族のためにまじめに仕事を師、社会生活を送っている人たち。犯行が発覚したときに周囲の人が口をそろえて「まさかあの人がそんなことをするなんて」という、そんな人物像です。
    →「性欲を抑えきれない、社会不適合者の見た目も気持ち悪い変態」というイメージとは不釣り合いなもの ※メディアに登場する性犯罪者のイメージ?

    ■加害者は被害者の気持ちを考えておらず、共感性が低い
    ・加害者の傾向として、加害者が負った不安や傷に対する想像・イメージがわいていない
    ・加害者の更生プログラムでは、相手の視点に立ち、考えるための訓練が施される
    ・心理学上も、自分にとって都合の悪い記憶は優先的に忘れる

    ■なぜ痴漢をするのか?その答えは「ストレスへの対処法」
    ・多くの加害者に何がトリガーになっているかを聞くと「営業成績」「決算」という回答が返ってくる
    ・ストレスに対する対処行動をストレス・コーピングという。健全な人間であれば、コーピングが「友人と飲みに行く」とか「スポーツをする」ことなどがあげられるが、痴漢犯罪者はどこかのタイミングで「痴漢をする」というコトになってしまう
    →事故的に女性の身体に触れてしまい、そこからハマってしまうことが多い

    ■痴漢で満たしているのは性欲ではなく支配欲
    ・全ての男性にある支配欲こそが、あらゆる性犯罪の根源であり、男性における加害性の本質 ※と、筆者は考えている

    ■男性はコミュニケーション能力が低く、ストレスへの対処が下手。だからストレス・コーピングの手段として痴漢に向かってしまう
    →犯罪心理学の本でも同じようなことが書いてあった。犯罪を犯すものは、趣味が少なく、友達も少ないと。
    >「痴漢行為を手放すことで、あなたが失ったものはなんですか?」と加害者に聞くと「生きがい」を失ったと答え、それに共感する加害者が多い
    >痴漢をする男性はそもそもが勤勉で仕事人間が多い傾向にあります。逮捕される以前から仕事に重きを置くかたわらで、痴漢をしていたのです。

    ■ポルノが男性の認知のゆがみを増長させている
    ・性犯罪者へのアンケートにおいて、「AVを観て自分も同じことをしてみたかった」とと33.5%が回答した
    →筆者によると、繰り返し認知の歪みを増長させる映像コンテンツを視聴することが、性犯罪につながっていると指摘
     →インターネットには痴漢同士が行為を自慢しあうような掲示板があり、それらを事前に読んでいる・観ていることが多い

    ■常習化した痴漢を辞めさせるには「逮捕する」しかない
    ・逮捕を痴漢は恐れている。職場や家族に必ず被害が及ぶ
    →痴漢は依存症なので、逮捕しないと、どうにもならない

  • 「すべての男性には加害者性が潜在している」…このフレーズに驚きつつ、だからこそ恐怖心から痴漢行為などの性犯罪と向き合えないため、被害者との意識のギャップが生まれるのか?また「男性が女性を下にみている」という考え方が根本にあって、その勝手な思い込みによる優位な立場が脅かされるのでは?という恐怖から女性蔑視や暴力があるのではないのか?…などなど、とても考えさせられる内容が多く書かれていた。これは「本当にコワい」わ

  • 私は電車内で痴漢に遭ったことがないし、その現場を目撃したこともないのだが、加害者が無意識に通報しなさそうなターゲットを選んでいることを知り、思い通りにならなさそうだからターゲットに選ばれていないに過ぎないのだろうなと思った。

    性犯罪に及ぶ者の多くは、人付き合いが不得意で、自尊心が低くストレスを溜め込みやすい性質があり、ストレスへの対処法(コーピング)として痴漢行為に及んでいると解説していた。痴漢をやめ続けるためには、過度に反省を強いたりすることはむしろ逆効果で、行為のトリガーとなるようなストレスに対するコーピングを複数身につけることが肝要であるという。

    加害者臨床と言うと、問題行動を病理化することで本人の責任を問わないことと誤解しがちだが、著者の斎藤さんらが行っている加害者臨床の現場では、加害者に対してつねに被害者の存在を想起させつつ、厳しい態度で彼らに責任を問うていると知り、非常に骨が折れることだろうなと思った。加害者臨床よりも、加害者家族への支援の方がやりがいを感じるという一節に、加害者臨床の難しさが顕著に表れている。

    また、加害者の父親が治療に参加することで当人の回復率が上がるというのは面白いデータだと思った。そもそも家族会と名のつくものに父親が参加すること自体が稀であり、痴漢加害者の父親の会でも何をしていいかわからず宙ぶらりんになりがちな父親には、母親の精神的サポートをするよう促すのだと言う。子育てや家庭に男性がいかにコミットしていないかがわかるエピソードだ。

    小児性愛の本でも書かれていたことだが、性犯罪の背景には男尊女卑が根付いた日本社会の影響が色濃く見られる。痴漢問題について語るとすぐに痴漢冤罪の問題を同列に取り上げる人たちが出てくる。そういった背景には、そもそも男性が女性を下に見ており、女性は男性の性を受け入れるべき存在、多少なら何をしても許される存在という価値観がある。女性という下に見ている存在から反撃される、脅かされることへの恐怖が、痴漢冤罪への恐怖という形で発現しているのではないかという指摘にはなるほどと膝を打った。

    DV加害者の多くは非常に臆病で、自分の自尊心を守るための「防衛」として、暴力で女性を支配し優越感を得るのだという。女性という立場からすると、非常に許しがたいことだが、そうしたメカニズムを知ることで、社会問題としての性犯罪への対処の仕方を考えることができるため、こうした知見が共有されることはとても有益だと思う。

  • 読了。依存症については少し知っているので、概ね思っていたような内容だった。他の依存症に対し「被害者がいる」という違いがより強調されているのが良かった。知りたかった薬物療法についても触れられていた。また、社会的/文化的問題が根底にあるのではないかという点について触れられており、それに関しては新鮮に感じた。
    8章の最後に書かれていた内容が全く同意できるものだった。私も常々、駅のポスターの内容は的外れだと思っていた。
    参考文献一覧が付いているともっと良かったと思う。

  • 今までにこの本を引用・言及されている方を何人か見かけたことがあったので、書かれていることひとつひとつは知っていることも多かったけど、1冊の本として体系的に読むことができてよかった。
    加害者が犯行し始める段階で捕まったり、治療に繋げられるようなシステム作りがされてほしいし、そこに大きく税金が使われない限りは国・社会が「痴漢はそこまで大きな問題じゃない」というメッセージを出しているのと同じだと思ってしまう。

  • 理解はできないが、病気なんだろうなぁということは前々から知っていたので読んでみた。でもこと痴漢依存に関しては、何故にそんなもん発症するのかがやっぱりちょっとわからなかったというか腑に落ちない。自分自身が快楽に弱いタイプなので薬物依存、アルコール依存、ギャンブル依存、セックス依存辺りはものすごくよくわかるのだけど、、、痴漢がストレス解消?になるかぁ、そんなんが???と思ってしまう。でもなる人にはなるんでしょうね、人の心は難しい。

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著者プロフィール

精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模と言われる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、アルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で、現在までに2500人以上の性犯罪者の治療に関わる。主な著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)などがある。

「2023年 『男尊女卑依存症社会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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