信用の新世紀  ブロックチェーン後の未来 (NextPublishing) [Kindle]

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  • インプレスR&D
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感想・レビュー・書評

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  • 2000年からデジタル通貨の研究を行っていた著者が、2017年の暮れに初版発行した、ブロックチェーン技術の詳細な解説と、その存在自身が意識されることなく社会インフラの一部になっている未来の状況を短編SF小説として書き下ろした著作。

    現在(2021年)は、小説が描く未来に、4年分は近づいているわけですが、コロナ禍で続く金融緩和の影響もあり、確かに、貨幣の価値が希薄化し、結果としては、金融が自らの価値を棄損しはじめている印象もある状況と感じるところもあり、本書の冒頭に書かれたSFの世界に、4年相当分は近づいている印象を私は持ちました。

    「貨幣は支配する側がその目的を果たすための道具として生まれたもの」で、貨幣のデジタル化が、その道具としての力を高める方向に利用されるのか、はたまた、それとは逆に、貨幣によって支配されていた状況からの被支配者(=貨幣経済の中にいる私たち)の解放の可能性を見出すのか。

    テクノロジーによって「貨幣経済が衰退する未来」のイメージを見せてくれる一冊です。

    最近みたYouTubeの動画で、著者の斎藤先生が「お金がデジタル化されるなんてことは、貨幣そのものが無くなった未来からみれば『一時そんなこともあったよね。ビットコインとか。』ぐらいな一時的な経過でしかなく、貨幣のデジタル化自体には今あまり関心がない」と話していたことに興味を惹かれて、本書を読みましたが、なるほどこの視点で見れば確かにそうだなと思いました。

  • 専門分化により貨幣経済が発達した

  • なかなか難しい問い。

    ブロックチェーンの可能性、というよりも、貨幣文化へのアンチテーゼか?

    近未来SF小説は短かったが、既存の技術の発展形で面白かった。

  • 「ブロックチェーンが可能にするとされていることの社会的な波及効果については、過小に評価されていると言ってもよいだろう。まず、誤解を解いていくところから始めなければならない」

    筆者はブロックチェーン上のスマートコントラクトを、空中に固定された、互いにコミュニケートできる「約束」(Communicating Promises in the Air: CPA)と独自の表現で定義する。「空中」ということで、誰もが参照可能であるという特質を示している。

    HyperLedger Fabric, Entreprise Eatherium Alliance, R3などが紹介されているが、まだまだプラットフォームとしての決定打に欠けるとのこと。また、技術自体の弱点も指摘されている。例えば、実時間性の問題、秘匿性の問題、スケーラビリティ、技術進化のガバナンス、インセンティブの設計、などが挙げられる。また仮想通貨以外の適用に関して、例えばトレーサビリティに関してもモノと識別しを信頼できる形で紐づけるための仕組みが課題とされる。ただし、弱点は意外な早く克服されていくであろうということも指摘されている。

    筆者は2000年頃からデジタル通貨の研究をしていたが、ここに来て急に色々な人が話をまじめに聞いてくれるようになったという。その変化はあまりに急であり、技術受容が指数関数的に変わるということを実体験として感じているとのこと。DAO (Distributed Autonomous Organization)という概念も出てきたが、企業や団体の考え方が変わる切っ掛けでもあるのかもしれない。

  •  ブロックチェーンはビットコインを支える技術として有名になったが、本書はビットコインの解説書ではなく、ブロックチェーンの解説書ですらない。本書のテーマは「ブロックチェーンなどの技術が実現しようとしているものが本当に実現したら、社会はどう変化するのか」を考察するものだと言えるだろう。ちなみに著者の専門は計算機科学で、デジタル通貨の研究で博士号を取っている。

     「本当に実現したら」という表現したのは、まだ実現していないからだ。ビットコインは国家の管理に属さず、国家の代わりにブロックチェーンが信用を保証するシステムだと言われているが、実際は多数の課題が残っており、技術的に厳密な意味では信用を保証できていないことを著者は指摘している。しかしそのこと(技術の未熟さ)はさておき、将来の社会のあり方を決める基本理念の原型がそこにあると著者は考えているようだ。

     これはもしかすると、経済学者の水野和夫氏が繰り返し主張している「長い21世紀」後の世界の一案なのではないだろうか。水野氏は『資本主義の終焉と歴史の危機』や『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』などの著書で、現在の資本主義経済はまもなく終わることを予言しているが、その後にどんな経済が訪れるかは何も語っていない。本書はそれにひとつの回答を提示しているように思える。

     「そもそも信用とは何か」を語るために人間の心の成り立ちから説き起こして未来社会を想像するという、かなり壮大なテーマをそう長くない一冊に詰め込んでいる。ビットコインの値上がりがどうのと目先の投機案件としてしか捉えていなかった人に是非読んでほしい。

  • 結局ブロックチェーンとはなんぞや?との疑問から手に取ってみました。理解力が及ばす全容は把握できないけど、「公的機関、国の介在なしでみんなの力によって記録を担保して行く仕組み」的なことだと理解した。「新聞モデル」での説明は噛み砕かれて分かりやすいけどまだ不十分な状態。個人的に。「はみ出しコーナー」の効果がなんとなく曖昧。。。

    後半の章に述べられている貨幣の消滅については、人工知能による労働環境の変化に領域が及んでおり、未来の自分の生活を想像する良い課題提供を受けました。相互の信頼関係の変化による世界基準の変化という感じでしょうか。

    貨幣は専門分化=農耕文化社会の相互扶助の仕組みに関わり貨幣が必要となってくる。今後の世界は狩猟文化に戻っていくという考察は興味深い。

  • 入りのSFでおおって思って引き込まれていった。

    以下メモ

    ・ビットコインの問いは「自分がもっているお金を自分が好きに送金することを誰にも止めさせないためには?」
    ・一般的に貢納を徴収されたのは被征服民のみだったのである。古代メソポタミアにおいてすでにそうだった
    ・「物々交換→貨幣→信用システム」という従来の諸説が間違っているという説は面白い
    ・テトラッドの4つの問い
     強化、衰退、回復、反転
    ・PDCAからOODA(ウーダ)へ。

    2018年1月④

  • 長年ブロックチェーンを研究し、現実の世界への応用に取り組んでこられた著者の熱い想いが伝わる本でした。一方で決して盲信するわけではなく、ブロックチェーンの問題点にもフェアに目を向けられている印象をうけました。僕はブロックチェーンは確かに革命的な技術であり、その発展はパソコンやインターネットの発明や普及のようなインパクトを与えるものだと考えていました。しかし、著者の考えはそんなものではなかったのです。2016年に話題になった本『サピエンス全史』では、農業革命が狩猟採集の世界からの大きなターニングポイントになったことが描かれていました。著者の考えでは、ブロックチェーン革命はその農業革命以来の人類史に残る大きなターニングポイントになりうるということなのです。

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著者プロフィール

1964年生まれ。「インターネットと社会」の研究者。
日立ソフト(現 日立ソリューションズ)などにエンジニアとして勤めたのち、2000年より慶應義塾大学SFCへ。2003年、地域通貨「WATシステム」をP2Pデジタル通貨として電子化し、2006年、博士論文「i-WAT:インターネット・ワットシステム─信用を維持し、ピア間のバータ取引を容易にするアーキテクチャ」を発表。
現在は「人間不在とならないデジタル通貨」の開発と実用化がおもな研究テーマ。
慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。一般社団法人アカデミーキャンプ代表理事。
一般向けの著書に『不思議の国のNEO──未来を変えたお金の話』(太郎次郎社エディタス)がある。

「2014年 『これでわかったビットコイン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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