これが最終号ということで名残を惜しみつつレビュー。vol.1から今まで様々な作者さんの作品を楽しませて頂きました。今回も一言ずつ感想など。
■キスキス・モー
やっとこのお話を読める心境になったので読んだのだけど案の定ぼろ泣き。主人公女性と飼い猫モーのお話。キスキス・モーという呪文のような言葉が色んな感情を伴って現れる。ファンタジックではあるけれど妊娠にまつわる様々な不安は非常にリアル。猫の愛情は犬と違っていつもこちら向きでないところが人間くさい。表紙絵の二人が未来の姿だといいなぁ。
■心、奪われて
別れから過去へと紐解かれる物語。表紙絵は群衆の中に沈んでしまうであろう地味な色合いで、ひたむきに露台を見上げるヒロインの姿。相手の幸せを、人々の幸せを願ってあきらめたはずの恋心。自分を納得させるためだけに心中で語られる過去。物語の結びの言葉は、一見彼に向けたように書かれているが彼女の心の鏡像のようで切ない。
■空も一緒に泣くから
最初は「てんてん干し」って面白い言葉だなと思いながら読み進め、あれ?と思ったところからはてなが増えていく。表紙絵の兵児帯を締めたあどけない少女の姿に、専門学校のお姉さんたちの気持ちがよく分かる。意外な主人公の立ち位置にはちゃんとそれを説明する由来もあって、おばあちゃんとの思い出はしみじみとして。このお話は創作だけど、地域ごとにこういう慣習が残っていたらちょっといいなぁ。
■山吹の門
表紙絵で少女の正体は明らかなのだけど、それを忘れさせる楽器の名をもつ少女との不思議な再会。かつて自分も感じたことがあるイザナギの裏切りへの非難に共感し、それをねじ伏せる変容に自分もまたイザナギと同じ生者であることを悟る。(彼女を花で飾る場面で、ネアンデルタール人が死者に花を供えたという話を思い出した。)重たい題材を扱っていたけれど穏やかな読後感。
■夜風は囁く
タイトルロゴに現れたカラスににやり。作者サイトで既読の作品だけど、遠景を得意とする作者(と勝手に思っている)なので、ふと見上げたら美しい景色が広がっていた時のような味わいのある文章をもぐもぐしつつ読む。隊長が指摘する矛盾点や時期の設定は再読でも胸ときめいた。読みやすいのは内容を知っているせいかと思ったんだけど、作者サイトで公開されているビフォアアフターに、細かく手を加えて味を調えていったのだと深く納得。確かにでんしょ版の方が良くなってる。楽しく読んで更に勉強にもなった。