桜の樹の下には [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
3.62
  • (4)
  • (8)
  • (7)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 88
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 青空文庫 ・電子書籍

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • この短編小説は、「桜の樹の下には死体が埋まっている!」という衝撃的な始まりで多くの人に知られています。桜の花は日本人だけでなく、今では世界中の人々にその美しさで人々を魅了しています。それは、筆者である梶井基次郎も例外ではありません。梶井基次郎は、そんな人々を魅了する桜の美しさに何故か不安を感じました。桜があまりにも美しすぎてその美しさが信じられなかったのです。そして、悩んだ末に梶井基次郎は桜の樹の下には死体が埋まっていて、その死体から出ている美しい水晶のような液体を桜の樹の根が吸い上げることで、あんなに美しい花が咲いていると考えました。桜の美しさには数多くの犠牲があり私にとって、このことは梶井基次郎が命の美しさ、そして儚さを表しているのだと思いました。この短編小説を通して、梶井基次郎は桜の美しさを命の儚さ、美しさに例え後世の読み手である私たちに伝えたかったのだと思いました。多くの比喩が用いられているため読む人によっては異なる解釈になると思うので、このことも、この小説を楽しむポイントだと思います。

  • 「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」
    「俺」は渓に下りた時、美しい薄羽かげろうが生まれ空に舞う姿を見た。その足元には何万匹もの産卵を終えた薄羽かげろうの屍体が油のような光彩を流していた。その時「俺」は残忍な喜びを抱いてしまった。また別の日、桜の異様なほど美しく咲き誇る姿から、不安や憂鬱、空虚感を抱いた「俺」。それは樹の花が真っ盛りになった時に撒き散らす一種神秘な雰囲気のせいだと言う。だがあの薄羽かげろうのように美しさの裏には残忍なほどの惨劇が必要で、その平衡があって初めて美しさというものがある。そう気づいた「俺」は、桜の樹の下には屍体が埋まっていることを想像する。「俺」は桜の樹の下一つ一つに屍体がいるならば、その抱いた不安にも納得がいった。屍体が腐敗した際に出る水晶のような液を吸い、桜は咲き誇っているのだ。
    この話は「俺」が「お前」に話しかけるような文体で進んでいく。人を圧倒するような桜は根拠のない美しさがあり、それが「俺」を不安にさせた。だが屍体が埋まっていると分かってしまえば、もうその不安は無くなり花見客と同じ権利で酒を飲めそうだと最後に「俺」は語る。「お前」は苦しそうな顔でしきりに腋を拭きながらその話を聞いている。冷汗が止まらないようだ。
    私は「お前」の気持ちのほうが同意できた。私の家の前には桜並木があるがその桜一つ一つに、肉が腐り溶け蛆が湧き得体の知れない油のような液体が流れた屍体が桜の根に絡みつかれている、なんて想像はあまりしたくはない。それこそ冷や汗が止まらないだろう。だが何の根拠もない美しさを持つ、人を圧倒する桜に出会っていないから、そう思うのかもしれない。何の理由もない美しさに出会ったことが無いから、そう思うのかもしれない。

  • 【読了メモ】ぞっとすると言っても嘘ではないし、わかると言っても嘘ではない。上手く言い表わせませんが、そんなお話でした。

  • 主人公は桜の持つ神秘的な美しさを信じられないことで不安を感じていた。
    しかし、「樹の下で絡み付いた桜の根が、屍体の汁を吸い上げている」と空想することにより、彼は桜の美しさの証拠を掴むことができた。
    理由を意識することでのみ桜の美しさを信じることができる彼は、
    「屍体が頭から離れていこうとしない」から「今こそ村人たちと同じ権利で花見の酒が飲めそう」だと考えた。

    つまり、「不条理な美しさは不安を感じるが、理由を掴んでいれば安心して美しさを味わうことができる」という風に私は解釈しました。

    また、「安全剃刀の刃」「ウスバカゲロウの屍体」といったアイテムによって印象に鮮明さと統一感が増しているところなど、さすがだと思います。
    つくづく、梶井基次郎はアイテム選びの上手さに定評のある作家だと感じますね。
    「檸檬」の魅力もやはりアイテムによる鮮烈なインパクトによるものに思えます。

    書評から作家論へずれてきたのでこのくらいで。

  • 青空文庫アプリダウンロード後、一番最初に読んだ作品。
    有名な一説だけれど、こんなに短い作品だとは思わなかった。
    でもやっぱり梶井基次郎好きだなあ。何が好きって、彼の文章が。特に精神的にささくれ立ってる時に読むと最高ですね!
    醜いもの+美しい(と言われている)もの=美しい!
    醜さ、おぞましさが美しいものに生命を吹き込む。白々しい美しさから生きている美しさになる。
    人間も、無菌室で育った純白潔癖な存在だったら美しくはないだろうな。

  • 気色悪い想像をして憂鬱になることでしか心が満たされない性癖、ですかね
    桜の樹の下には屍体が、石油のような光を放つ渓間の正体はウスバカゲロウの屍体が、美しいものをなすものの裏に醜いものがある、そんなとこかね

  • 有名な書き出し部分しか知らないので、この季節に読んでみた。二回繰り返して読んだ。短編小説ということだが、ほとんど「詩」だ。

  • 有名なあの文。これをモチーフにしたものを読んだり見たりしたに違いないと思うが、なぜか知っていた有名な文。

    「桜の樹の下には死体が埋まっている」

    美しいものの裏には何かある――

    そんな怖さを綴ったちょっと狂っているのでは?とも思うような内容。
    でも、美しいものの根底には何かあるんだ、と
    思ってしまうのもなんとなくわかる気もして。
    怖さをはらんだ短編。

  • 「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」の一文が
    あまりにも有名になっている作品をようやく読んだ。
    桜の美しさ、散っていくときの儚さ、
    それは日本人の死生観と通ずるものがあるのだろうか?
    そんなこと考えながら読んだ。
    そして、梶井基次郎の変態性とでもいったらいいのか、
    この人はこういった性癖があるのかな? と。
    「檸檬」しか読んだことがないので、何とも言えないが、
    それが気になってしまった。

全12件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

明治34年(1901年)大阪府生まれ。同人誌「青空」で活動するが、少年時代からの肺結核が悪化。初めての創作集『檸檬』刊行の翌年、31歳の若さで郷里大阪にて逝去した。「乙女の本棚」シリーズでは本作のほかに、『檸檬』(梶井基次郎+げみ)がある。

「2021年 『Kの昇天』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梶井基次郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×