微笑 [青空文庫]

  • 2人登録
  • 4.50評価
    • (1)
    • (1)
    • (0)
    • (0)
    • (0)
  • 2レビュー
著者 : 横光利一
  • 青空文庫 (2003年7月4日発売)
  • 新字新仮名
  • 青空文庫 ・電子書籍

微笑の感想・レビュー・書評

  •  大東亜戦争中の物語です。この戦争が舞台ということは、殺伐としていたり戦時中の窮乏生活を描いているのかと思いきや、語り手の梶やその友人の高田は著名な作家で浮世離れした生活をしており、主人公の栖方は若き天才で特権的な待遇なので、戦時中にもかかわらずレトロでのんびりした雰囲気。それでも最後の方では空襲が激しくなってきて疎開したりしています。

     栖方は不利な戦況を逆転させるほどの秘密兵器を開発しているということです。それほどの重要な人物なのに、憲兵に監視されたり刑務所に入れられたりと、なぜか扱いが悪い。

    「あれは僕の同僚ですよ。やはり海軍詰めですがね。」
    「あッ、黙っているな。敵愾心てきがいしんを感じたかな。」
    「もう僕は、憎まれる憎まれる。誰も分ってくれやしない。」
    「日本で最も優秀な実験室の中核が割れているのだ。」

      
     総力戦のはずの戦争で内部が派閥争いしているようだ。
     まるでファーストガンダムのジオン軍のようです。
     それでは戦争に勝てるはずがない。

     
     本作品では栖方が特殊な天才だということは分かりますが、語り手の梶も有能で感性豊かのようです。
     作家・俳人ながら数学にも強いようで、栖方に数学論を挑んだりしています。
     また、訪問者の足音から訪問者を推理する習慣があるようです。

    「僕はこれから、数学を小説のようにして書いてみたいんです。あなたの書かれた旅愁というの、四度読みましたが、あそこに出て来る数学のことは面白かったなア。」(栖方の言葉)

     
     栖方と梶、繊細な天才二人のぶつかり合いです。

      
     本作品は最初から終わりまで非常に面白く読ませて頂きました。
     栖方が本当の天才なのか狂人なのか、栖方が研究していた兵器はどこまで実現していたのか、最期までよく分かりませんでした。
     本作品の文体も繊細で、皆まで言わないというか、何かほのめかされているというか、行間を読むことが必要で、本当のところ梶がどう思っているのか、私にはよく読み取れないところがありました。
     しかし、横光利一の文体は心地良いと感じました。
     横光利一はよく川端康成と並べて名前が出てきます。
     私は川端康成の文体は苦手なのですが、横光利一の文体は好きになれそうです。
       http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20171005/p1

  •  楽天koboにて読了。

     太平洋戦争末期。横光本人を思わせる俳人の梶と、殺人光線兵器を開発しているという天才学生「栖方」(俳号であって本名ではない)との交流を描く。
     梶は、栖方の美しい微笑をとても気に入る。だけど、一方では栖方を狂人と評する者もいて、彼の無邪気な態度には、ちょっと怖さも感じられる。
     結局兵器の開発を待たずして日本は敗戦し、栖方は悔しさの余り発狂して死んだという。
     かつて死を恐れていた栖方に、梶はこんな言葉を送っている。
    「まァ、いつも人は、始まり始まりといって、太鼓でも叩いて行くのだな。死ぬときだって、僕らはそう為ようじゃないですか。」
     この作品には全体的に作者が当時を懐かしむような雰囲気が漂っているけれど、作者が懐かしがったのはもちろん戦争の時代ではなくて、その時代にあった青年の純粋さとか、潔さ、儚さなのかな、と思う。


     ちなみにこの作品が2014年の初読みになった。電子書籍ですよ。なんだか時代を先取りしているような気がしつつも、楽天koboで青空文庫の著作権切れの作品を読んでいるのだから、別にそんなことはなかった。
     そういえば、2013年には青空文庫の呼びかけ人である富田さんという方が亡くなられたそうだが、その功績には感謝しつつも、初読みに青空文庫を選んだことに、これまた別に関係はなかった。ただタブレットPCに入っている手ごろな長さの小説を読もうと思っただけだった。そんな感じで、これからもテキトーに気の向くままに本を読んでいきたいのでした。

全2件中 1 - 2件を表示

微笑を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

ツイートする