ブクログ引用集
「直には雑念があった。初子に奪われるのではなく、自らの意思でそれを常に与えようとする意地、自らを散らして弟に餞る己への憐憫と自己満足、世情への絶望、己への嫌悪」
言って黒衣は笑う。
「常にはそれがなかった」
かつん、と娘はさらに小首をかしげる。
「常には直に帰そうという、そのただひとつの願いしかなかったのだ」
黒衣は言いながら闇の中に足を踏み出す。
「己にあって直にないものならすべて、直に与えようという、ただそれだけしかありはしなかったのだよ」![]()
-出典:東亰異聞 (新潮文庫), 399ページ より






