90年代に放送されていた人気テレビ番組『ボキャブラ天国』『電波少年』などに出演し、ハウス加賀谷の爆発的なボケと、松本キックの鋭く絶妙なツッコミで一世を風靡したお笑いコンビ松本ハウス。ところが人気絶頂だった1999年、ハウス加賀谷の病気療養のため10年間活動を休止。2009年の復活後、初の著書となる『統合失調症がやってきた』は、ハウス加賀谷の統合失調症という病気の話を軸に、二人が歩んできた復活までの軌跡を松本キックが綴った本だ。
発売から約3ヶ月で五刷の重版というヒット作となった本作について、お二人自身のことについて、赤裸々に語っていただきました。

統合失調症について

まずは『統合失調症がやってきた』という本のタイトルになった統合失調症についてですが、
病名を聞いたことはあってもどういう病気なのかを知っている方は少ない気がします。
統合失調症とは、そもそもどういった病気なのでしょうか?

ハウス加賀谷(以下、加賀谷)重い症状としては、聞こえないはずのものが聞こえる幻聴とか、あと見えないはずのものが見える幻覚とか、過度の妄想がありますね。

松本キック(以下、キック)今言った症状は"陽性症状"と呼ばれる大きな症状で、落ち着いている時に出る症状として"陰性症状"というのがあって、感情が平坦化したりとか記憶力の低下とか考えがまとまらなかったりとか。

加賀谷人によっていろんな出方があるんです。
それに患者さんも結構多くて、だいたい100人に1人の割合で。

キック今現在、実際診察を受けている方は70万人で、病院に行かれていない方もいらっしゃるんじゃないかということで、100人に1人って言われてますね。
発症していても病識がないパターンもあると思います。だから本当に遠くの話ではなくて、すごく身近な話なんだということを知ってほしいですね。

どうして病気についての本を出したのか

テレビ番組の『ボキャブラ天国』や『電波少年』などに出演されて人気絶頂の頃に休養し、その10年後に復活されて最初に出した本が統合失調症という病気に関しての本、というのが意外でした。

キック例えば誰かが自分のことを書く時に、"自分はこういう経歴で・・・"っていうのを普通に書くじゃないですか。そういう感覚ですね。たまたま加賀谷が統合失調症をもってて、松本ハウスが統合失調症に関わってきたから、病気について書いているだけなんです。

加賀谷もう中学生の頃から発症していますから。
この本では僕が学生だった頃の話から、芸人になって休養を経て復活するまでが描かれています。例えば小学校高学年・低学年・中学校と時代に分けて、キックさんが僕にインタビューして、それをもとにキックさんが書いて・・・。

キック僕が物語に仕上げた。

なごやかな雰囲気でお話しされるハウス加賀谷さん(左)と松本キックさん(右)

加賀谷自分のことを話す中で、例えば「今日はこの時代の話をするぞーと思って、自分の中で消化出来ていると思っていた体験でも、思い出そうとするとぎゅーっと吐き気がして、トイレにピシャーっと駆け込むっていうことが何回かありましたね。
実際に本ができ上がってきて読んでみても、無意識のうちに読み飛ばしちゃう部分があるんです。

キック僕は加賀谷の心情というものを伝えたかったんですね、正確に細かく。統合失調症にはどういう症状があるのかっていう、そういう医学的な文献はあると思うんですけれども、その時に当事者がどう思ってたのか、何を感じていたのか、っていう本はなかなかないと思うんですよ。
だから、そこを正確に、丁寧に伝えたかったんで、やっぱり何回も取材して聞き返してるんですね。本人はしんどかったと思います。

加賀谷そうなんですよ、キックさん意地悪なこと聞くんですよ~、嫌なとこついてくる。

キックお前のためじゃねーかよ!(笑)
この本発売してから結構、「加賀谷さんの文章すごいですね」って言われてたりするんだぞ!

加賀谷僕が書いたと思ってる方もいらっしゃいますね、僕はただ喋っただけなんですけど・・・。
僕らのことを知ってる人には絶対にわかると思うんですよ、加賀谷があんな文章書けるわけがないって。

読ませていただいて、「キックさんはこんな文章を書かれる方なんだ!」と、すごくびっくりしました。また他の作品もぜひ読みたいです。

キックそうですね。なかなか僕が書いてる文章を読んでいただく機会ないと思うんで。でも結構、得意なんですよ~(ニヤリ)
出版後にたくさんの方に褒めていただけまして。
例えば、大竹まことさんにも、「お前は絶対に本書いた方がいい!」って。この前たまたま会った時も一言目が「お前、書いてんのかよ!」って。怖い怖い怖い!優しい人なんだけど第一声それは怖い!

みんな笑い

加賀谷大竹さん、前から、「松本キックっていうのはすごい男だなあ」っておっしゃってて。なぜか大竹さんからは「キックさん!」って"さん付け"で呼ばれてるんですよ。

キックそうそう、「敬語使わないでください!逆に怖いんで!」って言うんですけど(笑)。

業界的にも反響は結構あったのでしょうか?

キックええ。芥川賞作家の吉村萬壱さんも、「書いた方がいい!」って言ってくれまして。

加賀谷僕もそう思います。

キックお前に言われると、いきなり安っぽくなるなー

執筆にまつわる話

出版されて3ヶ月ほど経ちましたが、一般読者のみなさんの反響はいかがでしたか?

キックそうですね、反響としては、当事者の方やご家族の方にもすごく共感していただいてまして。精神科医の先生も「統合失調症を本当によく表している」と。そういう医療の側面からも参考になるとも言われますし。全く知らなかった方は「理解が深まった」といった声を聞かせていただいていますね。あとは、本好きの方には「おもしろい!」と言っていただけて、本当に嬉しいですね、単純に。

確かに、病気について書かれた本ではあるものの、純粋にこれまでお二人が歩んできた人生を物語として楽しめるようになっていますね。

キック統合失調症は加賀谷の個性の一つだ、っていう風に捉えてもらえればと思ってます。

加賀谷今回の『統合失調症がやってきた』っていう本のタイトルを決める前に、僕から提案したタイトル案の中に、『よくある話』っていうのがあったんです。それは「100人に1人の身に起こる可能性がある」っていう意味もあるし、僕にしてみれば僕の半生を語ってるに過ぎないっていう意味で。
僕はお笑い芸人をしているからこういう形で表に出てますけど、本当によくある話は、よくある話なんです。

キックそう多くはないケースかもしれないですけど、そんなに特別なことでもないよ、っていうね。
でも加賀谷が出した他のタイトル案が・・・(笑)

加賀谷○○王子とか、よくあるじゃないですか。そこから『精神王子』っていうのを出させていただいて・・・。

キック『精神王子』、意外と最終候補くらいまで残ったんですよ(笑)
最終的に、「いや、王子って感じじゃないだろう」ってことだったんで、ひょっとしたら"精神王様"だったら採用されてたかもな。"精神将軍"とか(笑)

実際の執筆や準備を含めて、期間はどれくらいかかったんですか?

キック実際書き始めてからは2ヶ月くらいです。
その前の取材はしっかりやりましたね、半年ぐらい。

加賀谷僕はキックさんからの質問に答えるだけだったので、楽ちんでした。

キック取材を終えてから、2ヶ月間僕は一所懸命、書いてるじゃないですか。書いて、ある程度できたら加賀谷に読んでもらうんですよね。間違ってるとこがないかとか、ちょっとここわかんないからもう一回、って聞いたりするんですけど、その他はだいたいまあ何もしてないですね。

みんな笑い

加賀谷楽しかったです!どんなんできてくるんだろ~?ってわくわくしながら待ってるの。

加賀谷さんご自身が喋ったことがキックさんの言葉で文章になるっていうのは、どういう感覚ですか?

加賀谷形としてはベストだと思うんですよね、僕。コンビですし。
僕は世の中よりも先に、キックさんの文才を認めてたので、まあまあ、もうちょっと磨けばものになるかなーと思ってましたね。

キック偉そうやな!

やっぱり普通のライターさんに書き起こしてもらうより、キックさんに書いてもらうことに意味があったのでしょうか。

加賀谷意味はあったと思います、やっぱり。コンビとして一番近くにいた人で、僕はずっと病気のことを隠してたけど、具合が悪くなったときも良くなり始めたときもキックさんはずっと知ってるんで。
本にも出てくるんですけど、僕は復活した当時の4年前、まだ「遅発性ジスキネジア」っていう症状が出てたんです。ひどいときは舌がブルブル震えてたんですけど、そんなこともキックさんは知ってるので、やっぱりキックさんが書く意味は大きいと思います。

キック本人が病気のことを語る時って、どうしても症状を言っちゃうんですよね。こんなことがあった、とか出来事とか事象を述べちゃうんです。心情っていうのは聞き出さないと本人からは話さないんです。
だから僕が聞き出して、さらに客観性を意識して書きました。

統合失調症がやってきた

著者 : ハウス加賀谷 松本キック 出版社 : イースト・プレス

人気絶頂の最中、突然芸能界から姿を消した一人の芸人--。お笑いコンビ「松本ハウス」は、ハウス加賀谷の統合失調症悪化により、1999年活動休止。その後入院生活を経て症状を劇的に改善させた加賀谷は、10年ぶりの芸人復帰を決意する。相方・松本キックの視点を交えながらコンビ復活までの軌跡が綴られる、感動の一冊。

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