影法師 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2012年6月15日発売)
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本棚登録 : 7591
感想 : 897
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「永遠の0」「風の中のマリア」に続き、百田作品を読むのはこれが3作目。前述2作品同様に、熱く芯の強い主人公のストーリーだ。時代小説は滅多に読まないのだが、贔屓にしている若手俳優がこの本を薦めており、どんな理不尽さにも屈せず出世していく主人公・勘一を支える親友・彦四郎を演じてみたいと述べていたので、俄然興味が湧き手に取ってみた。
頭脳明晰で剣の達人であった彦四郎は何故不遇の死を遂げたのか。勘一の哀しく辛い幼少期から物語は始まるが、彼に降りかかる非情な出来事の連続には本当に胸が痛む。父の死、貧困、いじめ。そんな境遇に負けることなく、ひとつひとつの困難に打ち勝っていく勘一の強さに心惹かれる。
そんな彼を誰より理解していたのが竹馬の友である彦四郎だった。互いに切磋琢磨し、夢を語り合い。仲間達と友情を育む場面は清々しく、青春だなと感じる。だが、ある事件をきっかけに勘一と彦四郎の運命は狂っていく。
順調に出世していく勘一とは対照的に、落ちぶれていく彦四郎。将来を嘱望された男が一体何故と謎は深まるが、その理由が驚くべき形で明らかとなる。
読み終えて、「どうしてそこまで」と心が痛んだ。正直言えば理解しきれないところもある。でも、そこまでしないと成し遂げられない、厳然として存在する身分制度。これが江戸時代なのかと痛感させられる場面がいくつもあった。刀傷沙汰。百姓一揆。藩の不正。核となる2人の熱い友情シーン以外にも、印象に残る男達がたくさん出てくる。命を賭して不条理な世に立ち向かう男達の潔さに胸が熱くなる。
そして、文庫版には袋とじとして、親本には収録されなかった「終章」が掲載されている。この章についてどう感じるかは人それぞれだが、私はあってよかったかと思う。ますます彦四郎に対して切ない想いがかきたてられることとなったが。
そして、この文庫版の表紙が内容を見事に表現していてとても好きだ。読了後に見ると間違いなくしみじみします。色々な意味で、スケールの大きい作品。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の作家
感想投稿日 : 2014年2月22日
読了日 : 2014年2月22日
本棚登録日 : 2014年1月21日

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