トオリヌケ キンシ

著者 :
  • 文藝春秋 (2014年10月14日発売)
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本棚登録 : 798
感想 : 158
4

「普通」からちょっとはみ出た自分を意識するあまり生き辛さを感じる登場人物たちに、優しく寄り添った短編集。
共感覚、明晰夢、相貌失認…など、先天的または後天的な理由でもたらされた能力、あるいは症状により、何らかの不自由さを感じる日常。甘やかで温かい文章が持ち味の加納さんだが、癒される場面がある一方で、虐待に苦しむ子供のシーンは読むのが辛かった。でも、理不尽な状況でもしっかり正面から見据えようとする加納さんの真摯さも感じさせられたのだった。
それぞれの登場人物らの、紆余曲折を経ながらの一歩一歩を見届けながら、そこにしっかり謎解きの要素を絡めてくるのも加納さんならでは。あっと驚くどんでん返しの展開は相変わらず鮮やか!特に、最終話へのつなげ方は見事でした。どの話も好きだけれど、お気に入りは「ささらさや」のほっこり感を彷彿とさせる「座敷童と兎と亀と」、加納さん自身の闘病体験が反映された最終話「この出口の無い、閉ざされた部屋で」かな。心に引っかかるカバー袖の一文、「とにかくね、一度でいい、愛の告白ってものをしてみたかったの」。どのストーリーでどう登場するのか…そのセリフの重みを知ったときは涙をこらえるのが大変でした。何だろう…いつも読書しながら泣きたくなったときは感情にまかせてだらだら涙を流すのだが、今回は何故だか、安易に涙をこぼしたくないなと思わされたのだった。静かな激しさ…って、矛盾しているかもしれないけど、実際に生と死に対峙した人だからこそ描けるリアリティが胸に迫ってきて、うまく言葉にできない余韻を今も引きずっています。
よくよく考えたら、加納さんの読者歴は長い。初めて彼女の作品を読んでから20年は経つだろうか。好きだった作家でも、寡作になったり、あるいは自分が離れてしまうこともあるのだけど、以前ほどのペースじゃなくてもコンスタントに作品を発表し、新刊が出るたび「読みたいな」と思わせてくれる存在はありがたいなと心から思うのだ。改めて、病を克服してくれたことが本当に嬉しいです。これからもお体に気を付けて、次作を楽しみに待っています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の作家
感想投稿日 : 2015年7月7日
読了日 : 2015年7月7日
本棚登録日 : 2015年6月24日

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