もっと血と汗と暴力のハードボイルドかと思って腰が引けていたのだけど、とても読みやすくて一気読み。
食わず嫌いはいけないね。
黙っていればエリートコースまっしぐらだったはずなのに、警察の身内意識を無視して捜査にまい進する鮫島は、二人一組で捜査するのが基本なのにもかかわらず、いつも単独捜査だ。
キャリア組にもたたき上げにも与しない。
ただ、犯罪を許さない。犯罪者を見逃さない。それだけだ。
“「俺が嫌いなのはやくざだけじゃない。法に触れるような悪事をして、それでばれなければ、まっとうな人間だと思っているような奴は全部嫌いだ」”
その正義感は時として、犯罪者になる手前で救えたかもしれない人間を、救えなかった自分にも向けられることがある。
そんな時、彼女(といっていいんですよね)である晶が、彼女の歌が、心が、存在が彼を救うのですね。
口が悪くても、彼女は実に真っ当。
ごりごりのハードボイルドって、時に悪人ばかりが主張して、読んでいると酸素が足りないような息苦しさを感じるけれど、この小説にそれがないのは多分に晶の存在によるもの。
連続警官殺しに使われた改造拳銃を作った男も、実行犯も、自分と自分の好きなものでできているとても小さな世界に生きている。
もうひとり。
直接犯罪と関係がないのに、自分から犯罪のほうに身を寄せていく男もそう。
自分。自分の好きなもの。
世界にはそれしか置かない。
それが認められない時は、世界ごと壊して終わりにする。
なんと現代の若者を見事に切り取っていることか、と思ったけど、この本が出たのは30年近くも前のことなのである。
- 感想投稿日 : 2016年7月14日
- 読了日 : 2016年7月14日
- 本棚登録日 : 2016年7月14日
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