船戸与一の遺作となってしまった大長編小説の第一巻。日本で唯一、異国の砂漠の匂いのする冒険小説を書ける作家が船戸与一だった。冒頭から船戸作品の面白さを十分に堪能出来る歴史冒頭小説である。
昭和三年から四年に掛けての満州を主舞台に雲南坂の名家・敷島家の四兄弟のそれぞれの生き様が描かれる。満州に渡り、馬賊の長となった次郎。奉天総領事館の外交官・太郎。関東軍の陸軍少尉・三郎。早稲田の学生・四郎。四人の兄弟のそれぞれが謎の男、間垣徳蔵と関わり、数奇な運命に翻弄されていく。中でも多く描かれるのは、馬賊の四郎であり、単なる歴史小説ではなく、歴史冒険小説といった味わいになっている。
自分が最初に船戸与一の作品を読んだのは『山猫の夏』だった。砂漠の匂いと強烈な人物像、ワクワクするストーリーにこれまでの日本人作家が描く作品とは全く違う世界に、以後、船戸与一に傾倒することになる。船戸作品の殆んどを読破して来たが、遂にこの作品が最後だと思うと非常に残念であり、何とも淋しい気持ちになる。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本
- 感想投稿日 : 2015年8月3日
- 読了日 : 2015年8月3日
- 本棚登録日 : 2015年8月3日
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