この作者の本は三冊目だけれど、初めておもしろかった。
天下人に最も近く、いつも力強く、自分を信じて自信を持って歩み続けたように思える信長を、葛藤を乗り越えて逃げずに踏みとどまった寂しい人物として描きだしているのが印象的。
真面目で、意外に心遣いを示したエピソードも残した信長が確かに、葛藤しないはずがない。考えればわかるはずなのに、つい見逃しがちなこと。人間は一面だけではない。父のやり方に疑問を感じる信忠が、自分も責任を負った時に、その重責に息苦しく感じているのを見抜いた父信長に慕う気持ちを感じた時に、気付かされた。
そして、その信長と恋仲になる晴子。この時代に、子供を産み、閨閥を作ることだけを目的とされることに、信長と出会う事で疑問を感じだし、自分らしく生きる道を模索しだす。
この気持ちもすごく共感できるし、本能寺の変の企てに気付き、信長を救おうと必至になるけなげさも共感できる。私も、晴子と一緒に、信長にときめきました。
面白いと思ったのは、信長が、公家を集めて所蔵の茶の湯の道具を入札制にするのだけれど、それぞれの公家が勝手に気を使い合って、自分の官位にふさわしいものを要望する様子にがっかりしてしまうシーン。信長が当時、いかにいろいろなしがらみから心が自由であったか、そして公家がいかに縛られている生き物かが顕著に現われている。信長の失望を思うと、一人相撲をとっている様な気持ちがしたであろうし、同情を感じる。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
歴史
- 感想投稿日 : 2015年10月23日
- 読了日 : 2015年10月22日
- 本棚登録日 : 2015年10月12日
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