ひみつの海(上) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)

  • 岩波書店 (2013年11月29日発売)
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感想 : 4
5

「ランサム・サーガ」も8作目。  全12作のうち現段階で岩波少年文庫から発刊されているのは次の第9作までです。  このままのペースで読み進めていくとあっという間に手持ちの「ランサム・サーガ」は終わってしまうし、次の発刊がいつになるのかさっぱりわからないし(何せ第1作の「ツバメ号とアマゾン号」は2010年7月発刊で、現段階で最後の第9作「六人の探偵たち」は2014年4月発刊と4年もかかっているんです!)、どうしたもんだか・・・・。  旧訳のハードカバーであれば図書館にあることがわかっているけれど、せっかく新訳で読み始めたんだしなぁ・・・・などと、あれこれ考えてしまう今日この頃です。

ま、それはさておき、前作(「海へ出るつもりじゃなかった」)で、心ならずも子供達だけでの夜間航行 & 外洋航海を成し遂げちゃったウォーカー家の子供達。

子供たちの中に船に対するトラウマやら何やら、お母さんの心配性のエスカレートなどが起こらなければいいのですが・・・・・。

な~んていう KiKi の心配こそまさに取り越し苦労 ^^;。  子供達は相変わらず冒険心満々だし、ウォーカー父さん & 母さんも全然堪えた様子もなく、次の冒険に子供達を送り出します。  しかもこれまでは「小さすぎる」という理由でいつも置いてけぼりだった末娘「船の赤ちゃん、ブリジット」まで引き連れての探検旅行です。

もっともこの探検旅行、当初は子供達だけではなくウォーカー父さん & 母さんも同行する所謂「家族旅行」として企画・準備されていたものだったのですが、あとは出発するばかりというタイミングでウォーカー父さんは勤め人の哀しさで海軍大臣から急遽の御下命を受け休暇返上となってしまったのです。  これが日本だったら「お父さんのお仕事の都合だから仕方ないでしょ。  今回は我慢しなさい。」となりそうなところが、さすがはウォーカー夫妻。  あんな大事件があった直後だというのに快く子供達だけでの探検旅行を許してあげちゃいます。

しかも子供達だけでの探検旅行の名目(?)が「島流し」とはやっぱり太っ腹さ加減(+ ユーモア・センス)が半端なもんじゃありません。  

さて、こうして出発することになる「島流し」の旅なんだけど、ただ漠然と流されてロビンソン・クルーソーのようにキャンプをするだけでは終わらないのがこの「ランサム・サーガ」のいいところです。  これまでもウォーカー家の兄妹は「極地探検」とか「金鉱探し」といった凡そ日本人からみるとスケールの大きな大人びた遊びに興じていたわけですが、今回の探検の目的は「地図作り」。  しかもその地図の作り方が巻末の解説によればあの伊能忠敬さんと同じ手法だというのですから驚きです。  

・・・・とここまで読み進めてきて、この「ランサム・サーガ」の魅力の底にあるのはこういう人類が長い年月をかけて一つ一つ積み重ねてきた発見や発明・工夫(しかもそれが多岐に渡る)をスケールが小さいながらも、子供達が子供たちの力だけで成し遂げていく、その過程にあるような気がしてきました。

「極地探検」にしろ「鉱物さがし」にしろ「地図作り」にしろ、それを最初に始めた人は偉大だし、地球規模で成し遂げてきた人たちも偉大だし、時には人生の全てをかけてそれに邁進したりする人もいたわけだけど、そのベースにある小さな一歩一歩は大人じゃなくてもできた(かもしれない)こと・・・・・というところに大きなロマンを感じます。

さて、この作品では「地図作り」が子供達の冒険の大事な目的の1つなわけですから、当然のことながら地図の挿し絵が多くなります。  最初は何が何やらよくわからない(どこが陸地でどこが水路かわからない)白地図からスタートし、子供達が少しずつ探索・測量してはそこに情報を書き加えていくのです。  おかげで読んでいる KiKi はしょっちゅうひとつ前の地図と今度の地図を見比べるためにあっちへウロウロ、こっちへウロウロ・・・・・。  地図の頁だけ紙の色が違うというような細工でもしてあれば参照するのも楽だっただろうけど、それを探し当てるのが結構大変でした。

今回はアマゾン海賊のナンシイ & ペギィは合流してこの探索に参加するのですが、D姉弟は参加しておらずそれがちょっと残念・・・・。  代わり・・・・と言っては何だけど、この新しいエリアで新しい友達(ウナギ族を自称するナンシイをちょっと大人しくしたような人たち)が登場するんだけど、KiKi にはD姉弟ほど存在感が感じられませんでした。  このウナギ族と親交を結び協力しあうようになる直前の一触即発モードの時にはちょっと期待したんですけどねぇ・・・・。 

そのウナギ族と親交を結ぶようになる際に大活躍するのが末っ子のブリジットで、何かあるたびに

「私はもう大きくなったのよ!」

と自己主張する姿が愛らしく、同時に無邪気な言動を聞くたびに思わずふっと笑みがこぼれます。  彼女の登場でこれまで末弟の位置に甘んじていたロジャとやっぱり年少組としてくくられていた感のあるティティの成長が感じられるのもとても楽しいと思いました。  それでもやっぱり子供らしさが溢れているなぁと感じるのは、「文明ってなあに?」と尋ねるブリジットにロジャが答える返事が「アイスクリームと・・・・・・、アイスクリームみたいなもの全部のこと。」というあたり(笑)  そうかぁ、「文明ってアイスクリームに代表されるものなんだ。」と妙に納得させられた KiKi も子供っぽいのかしら・・・・・。

これまでの作品でも「あと一歩間違えたら・・・・・」とハラハラさせられることが多かったけれど、今作での最大級の危機は年少組の3人が、満ち潮の中で立ち往生する場面。  ここ何日かはニュースでも水の事故が報告されていただけに、ホント、ハラハラ・ドキドキさせられました。  でもこういう遊びの中からこそ「リスク管理の心得」は身につくモノなのかもしれません。

今作を読了して一番感じたことはこの物語に出てくる子供たちの遊びは常に「必要最小限のモノしか与えられない中で、後は自分たちの創意工夫にすべてかかっている」というタイプの遊びだなぁ・・・・ということです。  彼らが島流しされた直後、持っていたのは白地図だけです。(測量に必要な機材;それもとても原始的なものだけ。)  与えられたモノの中だけで遊ぶ現代の子供達と、必要最低限のモノをあれこれ工夫して遊ぶこの時代の子供。  どちらが「より真っ当で力強い生きる力」を持ち得るのかは歴然としているなぁと感じます。

KiKi 自身もTVゲームに代表されるゲームは大好きだけど、誰かが作った世界・ストーリーの枠組みの中だけで遊ぶ(しかも世の中には「攻略本」とか「攻略サイト」が溢れている!)というのは、本当の意味で主体的に遊んでいるとは言えず、「遊ばされている」のではないか??  そんな感慨を持ちました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 岩波少年文庫
感想投稿日 : 2014年6月12日
読了日 : 2014年6月11日
本棚登録日 : 2014年6月11日

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