水の伝説 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2007年7月14日発売)
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本棚登録 : 150
感想 : 12
4

著者が一連の作品群で訴えたいポイントなんだろうと推察される「上から目線ではない自然保護・環境保護」については、切実に伝わってくる物語だったと思います。  東京で登校拒否 & 引き篭もりになってしまっていた光太郎君が初めて持つことができた友達(と言っても前半はまるで保護者だけど 苦笑)の龍雄君が「僕は山を守る人になる!」という決心をしたというのもと~っても尊い大切にしてあげたい考え方だと思うんです。  でも、今現在、Lothlórien_山小舎をメインの生活の場としている KiKi にはそれでもこのお話がある種「綺麗ごと」に感じられちゃうんですよね~。

この物語が書かれた1995年当時は今とはまた状況が異なったということもあるんだろうと思うけれど、今、この村付近の林業の実態を考えると「山を守る人になる」という理想と現実の生活との乖離に絶望的な想いを一層強く感じずにはいられません。

(中略)

この物語の龍雄君は、光太郎君と一緒に龍神さまや山姫さまと遭遇するという事件さえなかったら、「四年制の大学に進学して、都会でサラリーマンになって、マンションで暮らして・・・・・」という自分が経験したことのない、TVで見る一見華やかそうな生活に憧れていたという設定になっています。  もちろん彼には都会の厳しさみたいなものは恐らく一切見えていなくて、「カッコイイ」部分しかわかっていなかっただろうし、光太郎君のように精神的に追い詰められる人もいるということには思い至っていなかっただろうとは思うけれど、少なくともその道を選ぶ限りにおいては恐らく「山を守る人」になるよりもはるかに経済的に安定した生活が営めたことだけは事実だろうと思うんですよね。

でも、彼が小学校6年生にして下した「山を守る人になる」という尊い決断は、少なくとも経済的にはかなり苦しい道を選択したことになってしまうのは必須(≒ 要するに金にならない)なわけで、そんな彼の決断を「良かったね♪」とは素直に言い切れない KiKi がいます。  もちろんいかに技術が進んだ現代であっても「山を守る人」は必要だと思うし、龍神さまや山姫さまと心を通わすような人間が今も生き残っているとしたらそれはそれでものすご~く素敵なことだとは思うけれど・・・・。

こういう物語を読んで、龍雄君の決心を素直に喜べないのは、それだけ KiKi が都会ズレしている証拠でもあるけれど、現代社会全体がここまで経済主導的な社会である以上、哀しいけれどそれが現実だと思うんですよね。  そして、この2つの折り合いの付け方な~んていうのはかなり賢い人、知恵者が頭をひねったからと言ってそんなに易々とは答えが見つけられるものではないような気がします。  少なくとも KiKi 自身は都会で暮らしている時、こういう村で暮らしている人たちのことを「自分でその道を選択した人たち」と自分の生活とはある意味切り離して考えていましたから・・・・・。

(全文はブログにて)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 講談社文庫
感想投稿日 : 2012年3月7日
読了日 : 2012年3月6日
本棚登録日 : 2012年3月7日

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