あらすじ
『停電の夜に』『その名にちなんで』に続く,インド系アメリカ人の女流作家ジュンパ・ラヒリの短篇集。
本書は二部構成。第一部は,母の死後,ヨーロッパ旅行に頻繁に行くようになった父と,結婚し子どもできた娘との別離を描いた表題作「見知らぬ場所」,血の繋がらない伯父に対する母の執着とその顛末を描いた「地獄/天国」,高校・大学時代に想いを寄せていた女性の結婚式に参列するために一泊旅行に出た夫婦を描いた「今夜の泊まり」,アルコールで身を崩した優秀だった弟に対する姉の心情を描いた「よいところだけ」,美しいルームメイトに仄かに想いを寄せていた文学青年が,その女性と彼氏とのいざこざに巻き込まれる「関係ないこと」の5つの短編からなっている。
第二部は,インド系アメリカ人二世の男女,カウシクとヘーマの四半世紀を描いた連作短編小説。第二部は,両親に連れられてヘーマの家に居候をすることになったカウシクとヘーマの出会ったころのエピソード「一生に一度」,父の新しい妻とその連れ子の妹二人とカウシクとの出会いを描いた「年の暮れ」,幼いときに別れて以来会うこともなかったヘーマとカウシクの再会を描いた「陸地へ」の3つのエピソードからなる。
感想
ジュンパ・ラヒリの「短編」はやっぱり素晴らしい。静謐な文体で綴られた一つ一つの短編小説をじっくり味わいたい,読み終わるのがもったいないと思わせる魅力があります。
各短編小説は,インド系アメリカ人二世が中心人物として展開されています。けれど,読んでいてインド系であることを特に意識することはなく,ごく当たり前にいる人々として描かれています。私は,ありふれた人々の生活や人生の断片を切り取った物語を短編小説に求めているので,この作品は私の求める短編小説のあり方にピッタリ合っていました。そして,インド系アメリカ人二世が差別を受けたり,アメリカに馴染むのに苦労するという話ではなく,アメリカで生まれ育った二世たちの等身大の生活や人生の断片であったから,すっと作品に入り込めたのだと思います。
それぞれの短編小説は,甲乙つけがたいところがあります。ただ,第二部「陸地へ」でヘーマとカウシクがローマで偶然再会するところは,メロドラマみたいで他に再会する方法はなかったのだろうかと思いました。
- 感想投稿日 : 2012年9月15日
- 読了日 : 2012年9月13日
- 本棚登録日 : 2012年9月2日
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