火の鳥 1 黎明編 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (1992年12月8日発売)
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本棚登録 : 2004
感想 : 228
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前にも読んだけど、古事記を読んだので再読。
古事記では天の国からやってきた神様ということになっているニニギの命だが、手塚治虫ワールドでは大陸から馬に乗ってやってきた侵略者、ただの人間ニニギ。学説としてどういう理解が主流なのかは不勉強のため知らないが、まさか本当に天の国からやってきた神様が天皇の祖先なんていうことは今や誰も信じていないだろうし、どこかからやってきた侵略者には違いないんだろう。そう考えると、古事記書いた人はよくもまあ恥ずかしげもなく、俺たちの先祖は神様~なんて言ったもんだなあ。神話ってどこもそういうもんなんでしょうか。昔はいまの感覚とは違って、そういうことで権威を保てたってことなんでしょうか。戦前もそれをやろうとしてたってことですよね。
さて、手塚治虫の火の鳥黎明編ですが、古事記に出てくる人物の名前を効果的に使ってはいますが、古事記そのままを書いているわけではありません。ヒミコの弟がスサノオとか。サルタヒコがイザナギを奴隷にするとか。だから頭の固い古事記ファン(という人がいればですけど)は怒るかもしれないくらい、好き勝手に物語を作っています。でも時おり地の文で、「サルタヒコとは古事記ではこう書かれている人で学者たちにはこう考えられているんだけどこの物語ではこーんな活躍しちゃうよー」みたいな解説があります。ベースがあった上でのイマジネーション。
で、単に歴史解釈の物語なのではなくて、不老不死の火の鳥(その血を飲むと不老不死になれる)がいて、老いや死を恐れる人間たちがいて、このあと未来編やらギリシャ編やら時空を超えた連作としてつながっていっちゃうわけですから、なんかもう、すごい人っすね。これだけでライフワークって感じだけど、他にもたくさん書いているし。

*追記*
「好き勝手に書いてる」なんて言いましたが、もいちど古事記を確認したら、
・ニニギの命が降臨したとき道に立っていたのがサルタヒコ
・アマテラスに命じられてサルタヒコが何者か尋ねにいったのがウズメ(それでサルタヒコはニニギの案内に来たのだとわかる)
でした。
黎明編でも、ニニギ率いる高天原軍とサルタヒコが出会ってサルタヒコが殺されそうになったとき、私に免じて許してくれと進み出たのがウズメ。
ウズメは醜女(これは化粧で化けていて、実は美女という設定)に描かれているが、古事記でも、阿刀田さんの解説によると、
「よほどおもしろい顔をしているので顔を合わせると相手が気を許してしまうのか、人間関係の妙を心得ているからなのか、とにかく相手を仕切ってしまい、結果として勝ちを収める、そんなタイプの女性なのだろう。」
ということで、これが原文は
「い向ふ神と面勝つ神なり」
となっているらしく、阿刀田さんなんて「舌足らずな言い方」とか言いながらもよくこんな風に想像を巡らせられるものだなあ。もちろん阿刀田高も手塚治虫も、多くの先行研究を熟読されたんでしょうけどね。
手塚解釈では、サルタヒコは当時の日本のある地域の有力者、ニニギに侵略されて降参した、というのが史実だろうと見ている。マンガの中では、醜女のウズメが進み出てサルタヒコ(こちらも醜男)と夫婦になるということでサルタヒコは死を免れる。
阿刀田解説による古事記での記述は、前述のとおり。
ウズメさんは一体何をして、サルタヒコを従えたんでしょうね。ウズメさんは、天岩戸事件のときに、岩の前でストリップまがいの舞を披露して大いに場を沸かせた女性でもあります。気になる…やっぱり身を捧げたんだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 漫画
感想投稿日 : 2014年1月22日
読了日 : 2014年1月22日
本棚登録日 : 2014年1月21日

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