私と踊って

著者 :
  • 新潮社 (2012年12月21日発売)
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感想 : 190
4

恩田さんの本は何故か秋から冬に読みたくなる。
帯のピナ・バウシュにをモチーフに書いた表題作を読みたくなって、手に取る。恩田さんのタイトルにはいつもやられるけれど、今回のもまた切実な声が聞こえてきそうな気がするタイトル。
『心変わり』
友人であり同僚のおかしな内線に、彼のデスクを尋ねてみると、彼は消えて彼の残した不自然なデスク周りの状況が残されていた。彼はどうして、どこに?
運命がまだ心変わりしないうちに、必ず。という一文の祈りのような感情が胸に来た。それは私だけかもしれないけれど。
『骰子の七の目』
私が出掛ける"戦略会議"は良識のある大人だけで構成され、そこではいつでも正しい話し合いがなされてきた。ある日見知らぬ女が会議に現れるまでは…。彼女は高笑いのもと吐き捨てた。「馬鹿馬鹿しい」
『忠告』
ある日宇宙船が放った光を浴びた動物たちが人語を介しだした。そして飼い主へ手紙を書く。下手くそな文字と文章で。「ごしゅじん にげてくだい しんぱい」
『弁明』
少女は一人小さな舞台に立ち、とある一日を語りだす。果たしてその日の終わりは?そこで語られたものの物語との結びつきは?『中庭の出来事』のエピソードの裏話
らしい。こちらをよみたくなる。
『少女界曼荼羅』
セカイは動き続け、一時として同じではいない。これは比喩ではなくこの世界の姿。そこで毎日を過ぎす"私"は遠くまで流されてしまった"地学の教室"がまた戻ってくるのを待ち、友人たちと"彼女"の噂をする。
こういうお話大好き。少し六番目の小夜子チックだななんて思った。
『協力』
ある日宇宙船が放った光を浴びた動物たちが人語を介しだした。そして飼い主へ手紙を書く。下手くそな文字と文章で。"にわ ばら ねもと かくしてゆ"
『思い違い』
喫茶店で起こった一悶着。そして事件解決。
正直これは私にはあんまりだった。また読んだら違うかしら?
『台北小夜曲』
友人だった映画監督が亡くなって暫く、彼の追悼の意味で彼の愛した台北の地で記念フィルムを撮ることになった私。私が見かける少年の影。"ここはデジャヴの街"。午前四時のmail。「ドアは開けておいて。蛇口を閉めてくれるかな?」
恩田さんのノスタルジックマジックな一話。
『理由』
両耳から猫のしっぽ。そんなお父さん。
『火星の運河』
"台北小夜曲"と対の物語。
友人と乗った遊覧船の上、いつか撮った少女の面影が揺れて覆いかぶさる。果たされなかった約束の飛び立つ、台南の甘い街。
『死者の季節』
恩田さんいわく、最初で最後の実話怪談。
『劇場を出て』
美しい少女の燃えるような瞳が見えるような、短いけれど、よくある場面だけれど、幻想的。スポットライトのような街灯の下で。
『二人でお茶を』
コンクールの直前、私の中で出会った"彼"。その抜きんでた技術とピアノへの情熱。向学心で突き詰められたピアノ、そして最後の「二人でお茶を」。穏やかで聡明な二人の物語。
『聖なる氾濫』
写真を撮った実際の場所へ立つことでその時の写真を撮った人の心を読み取る能力を持つ青年のもとを訪れた夫人は、父の最後を、その真実を知りたかった。
『海の泡より生まれて』
エーゲ海。その発掘現場で青年は語った。「色彩だ。自然の色彩を模したところから文明が、文化が始まったのだ」親友の至った発想を知りたかった教授。"聖なる氾濫"の青年のお話し。そしてここで出てくるアリスは"ブラック・ベルベット"のアリスかしら?
『茜さす』
"海の泡より生まれて"の青年の魂の里帰り。
映像が流れていく様は美しい。
『私と踊って』
彼女は"壁の花"だった私に言った。「私と踊って」
それから年月は過ぎ、彼女は世界的なダンサーに。けれど彼女と踊れるのは、私なのだ。
たぶんこの短編で一番好き。
『東京の日記』
彼は"自粛"を強いる東京での日々を日記に綴る。季節の和菓子と、チンドン屋、ハトの雨、そして黒バス。どこかすぐ隣の私たちの世界を除いたような短編。
『交信』 
どんどん近くなる、そのために遠くなったもの。
はやぶさを思った短編。この短さで少し涙が出た。

これ、長編で読みたい!と思うお話がたくさん合った。恩田さんの書く世界がやわらかで、秋の落ち葉のように鮮やかだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 短編集
感想投稿日 : 2015年10月19日
読了日 : 2015年10月19日
本棚登録日 : 2015年10月19日

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