西暦2540年。人間の工場生産と条件付け教育、フリーセックスの奨励、快楽薬の配給によって、人類は不満と無縁の安定社会を築いていた。だが、時代の異端児たちと未開社会から来たジョンは、世界に疑問を抱き始め…というのが粗筋。
ディストピア小説の代表の一つと数えられていることもあって手に取ったのですが、刊行されたのが1932年と知って読み始めたこともあり、背筋が冷たくなるといいますか、読み進めて行くと不気味な印象を受けます。
多分、刊行当時は”皮肉めいたおとぎ話”程度に読まれていたのだろうけど、昨今の世を眺めてみると所々現実味を帯びているのではないかな、なんて思ったりします。…いや、当時もどこぞの国では禁書扱いになったらしいし、今よりも危惧されていたのかもしれない。
舞台は今よりもずっと未来の地球。
ただ、ハイテクノロジーの類いは流石に出てきません。第二次世界大戦前ですし、ネットワーク云々もありません。それでも、今読んでみてもこうして考えさせられるのは、人間に対する本質的な問いかけが、今の世の中にも十分通用し、且つ、ここから派生した内容が今のSF作品などで問われ続けているからなのでしょうね。
人の幸福とは何か?
人は何故、人足り得るのか?
SF小説の読書量は少ない方だと思いますけど、哲学めいた小説でありながら難解で読みにくい作品ということはありませんでした。
作中、シェイクスピアの引用が多用されるのだけど、それも注意書きとして添えられているし、海外翻訳としては読み易い部類に入るんじゃないかな。
とはいえ、普段小説を読まない方が本テーマに興味を持ち、エンターテイメント的な内容を期待して読み始めようとするなら、お薦めしません。
物語の進行は遅めですし、ラストも救われない。
なんだかんだ言っても、やっぱりSFーとりわけ社会や人間の在り方への考察が好きな方にお薦めの作品ではあります。
- 感想投稿日 : 2016年12月29日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2016年12月29日
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