達人の弟子 海を渡る (中公文庫 む 24-2)

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年12月20日発売)
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本棚登録 : 40
感想 : 8
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「達人山を下る」の続編が文庫書き下ろしで出版と言う事で期待度大で購入だ。

前作は山に籠もり一人で「昇月流柔術」を極めた80歳の達人・山本俊之の痛快達人物語。孫娘が誘拐されたことを知り、達人は40年ぶりに息子家族の居る東京へ向かった。誘拐に関わっていると思われる渋谷のチーマー、ヤクザ、カルト教団、そして大物政治家までもを次々と秘技・「石仏の突き」「失禁のツボ突き」を繰り出しやっつけるという痛快物語だ。

で、今作も期待するのはそうした痛快なる達人の技を駆使した活躍場面。達人が陶芸をするのも孫娘に達人の技を教え込んで今や達人以上の使い手というのも前作の最期で紹介はされていたのでまさに設定はその通りだ。

タイトルは「海を渡る」だからか孫娘の婿がイスラム系の元留学生、新たに弟子に志願してきたクロアチア系ドイツ人大学生と同僚のサッカー部大学生など等、海外に縁のありそうな人物たちが達人の山で陶芸と柔術修行を行うところから物語は始まる。だが、物語は達人の旧制高校時代の思い出話や兄弟と思い出話にページを割いたり、余りにも普通な展開というのか室積得意の飛躍感が溢れるエンタテインメント性が見られないではないか。

前作の如く次々と目まぐるしく展開が進み達人の技がまた新たな展開を呼ぶと言うリズム感は無く、ちょっとしたファミリー物語のような空気が漂ったりで、期待感との距離がページをめくる度に広がる感じだ。前作の幻想がそうさせるのだろうか、否、達人は達人でありその技を封印するならばこの続編の意味はあまりないような気もする。

これまで室積の作品は馬鹿げた設定をモノともしないエンタテインメント性にあったのだが、今作はちょっとばかりストーリーに走ったのが残念無念。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説その他
感想投稿日 : 2011年12月26日
読了日 : 2011年12月26日
本棚登録日 : 2011年12月23日

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