母がこれを読み「なんかすごく読みにくかった」と言っていた。実際、そうだと思う。保坂和志の文体はどうにもまわりくどい。淡々とした語りの中に、突然「思索」が入り込んでくるのだ。「。」をつけずに、延々と主人公は考え込んでしまう。やっかいである。<br />
けれどこの「思索」に居丈高な感じはまるでない。これは案外すごいことだと思う。というのも、ネットでよくあるタイプだが、思索的な文はなぜか攻撃的になりやすい。思索するサイトほど、ネットバトルを呼び込みやすい。<br />
ところが保坂の場合は、そうならない。なぜなら、さんざん思索したくせに主人公は最後に「わからない」などと言い出すからである。<br />
だからある意味でこれは「ぬるい」小説とも言える。主人公たちは決して決闘したりはしない。だけどそれゆえに「絶交」もしない。ときに違和感を感じつつも、いっしょにいる。ちがうけど、いっしょにいること、これが保坂文学最大の魅力に思える。登場人物たちは違いを感じつつも、同じアパートに「いっしょに」住み続ける。<br />
基本的にわたしは、彼の思想に共感できないことがものすごく多い。意見が一致する余地はきわめて少ない。しかしこんなに作者の思想に馴染めなくとも読める小説というのは、自分にとってひどく貴重な存在である。(けー)
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- 感想投稿日 : 2005年10月3日
- 本棚登録日 : 2005年10月3日
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