海の底 (角川文庫 あ 48-2)

著者 :
  • 角川グループパブリッシング (2009年4月25日発売)
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本棚登録 : 24720
感想 : 1673
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 有川浩発、通称自衛隊三部作の中の完結作であり、大人ライトノベル第二弾という『海の底』は、『塩の街』や『空の中』とは作品の空気感が全く違い、ほっこりシーンの少ない緊迫したパニックもの、という印象。
そして巨大人食いザリガニ襲来、というリアルにはありえなさそうな設定以外は全て、とてもリアルに思えた。

 横須賀に住む身としては、描かれる場所の全てがほぼリアルに想像できるし、そこに作中の惨劇をプラスしていくと、もう怖ろしくて、小説の中に入り込みすぎて疲れたくらい。初っ端の、艦長の殉職という衝撃的な出来事は、夏木や冬原だけではなく、読み手にもかなりショッキングなシーンであり、その衝撃を引きずったまま緊迫した世界に引き込まれていくことになる。
「掴み」は完璧。そして、途中で私も「何故、最初から出さないッ!」と叫びそうになった。

 滅茶苦茶な状況に立ち向かう人々がまたそれぞれに魅力的で、有川さんはキャラの作りこみが本当に上手いなぁ、と思う。平時では異端視される、ちょっとクセのあるキャラが大活躍するところには、何とも言えない爽快感がー。生意気でどこまでも子供っぽい問題児の落としどころも、ニクい展開。

 その後の夏木と冬原の恋愛模様が『クジラの彼』で楽しめるのだけれど、私は我慢できずに先に好物のラブコメパートを読んでしまっていたので、夏木と望のなれ初めとか、冬原のキャラ等を後追いで知る形になってしまい・・・でも、緊迫感のある本編からのラブコメ、が順番としてはやっぱりいいように思えた。なので、もう一度『クジラの彼』を読み返そうと思う。

 『海の底』は、海上自衛隊の隊員がメインのお話。自衛隊三部作の中でも、とりわけストーリーは硬派な感じがするのだけれど、陸・海・空、それぞれの自衛隊のイメージを思い浮かべた時に、伝統墨守、昔気質的な海自のイメージに、硬質な空気が漂う本作はとてもマッチしている気がする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Books
感想投稿日 : 2015年10月16日
読了日 : 2015年10月16日
本棚登録日 : 2015年10月13日

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