上京ものがたり

著者 :
  • 小学館 (2004年11月24日発売)
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本棚登録 : 612
感想 : 76
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西原理恵子「ものがたり」三部作の最初に当たる作品です。主人公の女の子が上京しなりふりかまわずに生きていく様子を描いた物語です。ミニスカパブの「おねいちゃん」から徐々に自分の夢を生きる姿に励まされます。

久しぶりに読み返してみました。本書は西原理恵子が大学生活を送るために上京し、なりふりかまわなかった日々を振り返ったエッセイ漫画です。ここに描かれているのは華やかなキャンパスライフからは程遠いもので、歌舞伎町のミニスカパブの「おねいちゃん」として生活費を稼ぐ日々や働かずに彼女の家に転がり込んできた男との同棲生活。そして、駆け出しの「イラストレーター」として営業として売り込みの毎日…。

主人公いわく「生きるって、なさけねぇなぁ」と自身があげたフライドチキンを猫がかじっている姿の中に見つめていたり、ミニスカパブでの客や他のおねいちゃんとのやり取りに理不尽さを受け止めながら、東京にしがみついていく彼女の姿が、当時上京してきたときの自分とオーバーラップしたりしながらページを読み進めておりました。

すべてが見所といってもいいのですが、僕が印象に残っているのはミニスカパブのバイト中に酔っ払った客が彼女に心ない言葉を投げつけるところで、彼女はそうした「しんどい言葉」を本心とは真逆の感情である笑顔で受け流す努力を続けるうちに、夜、自分の部屋で寝ているうちに顔面麻痺になってしまうところで、それを彼女の店の店長に言うと、彼は大声で
「バカヤロー。だから高い時給がもらえんだ」
と、大声で言い放つ場面で、それで彼女は
「あ。そうか」
と納得するのです。

伊集院静先生が自身の著作の中で確か『大人になるには、理不尽と遭遇することだ』というようなことを申していたかと思いますが、その言葉を連想しました。僕も実はこういう席のおねいちゃんにこのエピソードをかいつまんで話したことがあって、そのときに彼女は職業的良心かはたまた本心なのかは今となっては知る由もありませんが
「あ、それわかるー」
といっていたことも同じく思い出しました。

やがて彼女の絵が売れるようになり、絵で食べていけるようになったときに、読者の一人からこんな手紙をもらいます。
『毎日しごとがしんどくて、上司ともうまくいかなくて
家に帰っても、こころが苦しくて
ねむれなくて
そんな時にいつもあなたの本を読みます。
あははと笑って
いらいらしてた自分がもうどーでもよくなって
それでぐっすり眠れます。』
他のインタビューで、筆者が一番うれしかったと語っていた手紙です。どんなことを描いても最後はここに立ち戻ってくる。叙情系サイバラ漫画の好きな作品のひとつです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年1月4日
読了日 : 2013年1月4日
本棚登録日 : 2010年11月5日

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