暗殺国家ロシアーー消されたジャーナリストを追うーー (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2013年5月27日発売)
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感想 : 10
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ロシアという国が持つもう一つの姿が浮き彫りになっているような本でした。真実を告げようとするジャーナリストやその媒体は『何者かによって』文字通り『抹殺』されていく。そんな恐ろしさで身の毛がよだちました。

恐ろしい…。僕はこの本のページをめくりながら何度もそうつぶやいてしまいました。ロシアでは新聞やテレビなどで、現政権やプーチン氏を批判した際には、何らかの形。具体的にいうと 白昼街中でカラシニコフで文字通り『蜂の巣』になるまで射殺された者、放射性物資を密かに飲まされ衰弱の果てに命を落とした者、自宅前で撲殺された者......。 などなど、恐ろしい最期を遂げる中で(もちろん政府は関与を否定) 「ノーバヤガゼータ(新しい新聞)」という孤軍奮闘、鋭い権力批判をつづけている新聞社とそこで働く記者やスタッフたちを追ったルポルタージュです。

僕自身もこういう本を紹介して何か『警告』があるんじゃないかと思い、ビクビクものですが、ここに取り上げられているジャーナリストたちのこと思えば、そんなことは屁でもないであろうという考えに従っていこうと思っています。

僕が読んでいて特に恐ろしかったのは第8章の『ベスラン学校占拠事件の地獄絵図』という章のところで、現地で取材をしたエレーナ・ミラシナの前に繰り広げられていたのは、まさに地獄としかいえないような光景で、僕はここには書きたくないのであんまり具体的なことは書きませんが、突入した特殊部隊のメチャクチャな作戦内容と、『テロリスト』と呼ばれる人間に対してどういう報復手段に出たのか。そして女性でありながらよくここまで取材ができたな、という感想と、こういう『真実』を報道するとロシアでは文字通り『消される』ということをまざまざと知ることができました。

僕はロシアが語が読めるわけでもないし、正直、ここまでして真実は追究できません。ですので、国の意図どおりの放送をして、喫煙室でローンの完済日の話だけをし、高給をとっているテレビ会社の人間に対しても批判的な目を向けることができない自分が存在するのです。勇気あるノーバヤガゼータのスタッフたちに敬意を払うとともに、ロシアという国の多様性と闇の深さというものを思い知る一冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年6月2日
読了日 : 2013年6月2日
本棚登録日 : 2013年6月2日

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