災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)
- 亜紀書房 (2010年12月17日発売)
かなり読み応えのある本で、読了までは時間を食いました。
1900年代初頭の地震から2004年のハリケーンカトリーナまでの、代表的な自然災害・人為災害を取り上げ、その被災地で人々がどのように協力して生き延びていったかが、エピソードをふんだんに紹介しながら述べられています。その点では、論文というより各論を知るための本、という印象も受けます。
災害の種類として地震、船舶に積まれた火薬の爆発事故、9.11のテロ、ハリケーンによる水害と、それなりにバラエティを持たせて紹介されているので、災害の種類に関わらず被災地では人々が助け合うユートピアの出現を見ることができる、という点は評価できます。
一方、著者が序論で触れている通り、取り上げている災害がアメリカ大陸で発生したものに限られているため、そのほかの文化・思考・宗教を持つ国や地域で同様のユートピアが出現するかどうかを実証できるものではなく、それはこの本の大きな限界の一つだと思います。
とは言え、3.11を経験した日本を振り返ると、「権力者が自己の権威を回復させようとする中、従来と全く違う政策を取らざるを得ないためにパニックに陥って事態を悪化させる」「メディアが思いこんだことを報道することで噂が真実となり、二次被害が広がり災害の被害が拡大する」「権力者は被災者を弱者にすることで自己の威厳を保ち、政策を正当化できるため、災害が発生すれば大衆はパニックを起こし暴徒化するという論をメディアや映画を通じて啓発したがる」などといった論点は、洋の東西を問わないのかなという気もします。
後半のハリケーンカトリーナの被災地で起きた「虐殺と権力者による被災者の黙殺」は、結構ショッキングです。これが正当化されるなら、アメリカの一部は病んでるとしか思えない。
- 感想投稿日 : 2013年7月5日
- 読了日 : 2013年7月5日
- 本棚登録日 : 2013年7月5日
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