コーダの世界―手話の文化と声の文化 (シリーズ ケアをひらく)

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  • 医学書院 (2009年10月1日発売)
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感想 : 29
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本人は耳が聞こえるけど、耳の聞こえない親に育てられた――この本の主役「コーダ」とは、そんな「親にろう者を持つ聴者」のこと。聴者の言語文化(「健常者」の言語文化)と、手話を中心としたろう者の言語文化の二つの境界に位置づけられてしまう、そんな存在だ。

例えば、親の持つろう者の言語文化で育ったコーダは、成長につれて自分の行動が周囲と比べて変であることに気づいていく。その時に、コーダはどんな思いをかかえ、どんなふうにふるまいを変えていくだろうか。そして親にはなんと言うだろう。

本書『コーダの世界』では、多数のコーダへの聞き取り調査を軸にして、彼らが二つの言語文化の間でどのような経験をして成長していくのかを描いていく。そして、この二つの言語文化の持つ特徴や力関係もあぶりだしていく。また、こうした経験を(とりわけコーダ同士で)語ることで、コーダの自己物語がどのように変容していくのかという視点を導入している点も、興味深い。

障碍を扱っているので様々な問題提起を含んだ本ではあるし、実際ここには社会的に解決しなくてはいけない問題も出てくるのだけれど、まずはあまり深刻に考えず、コーダという境界人の視点を通して聴者(「健常者」)が自分たちの言語文化のふるまいについて見直す一冊と捉えてもいいと思う。

事例も豊富だし、文章もたいへん読み易い。とても面白いので、できれば新書などで、もっとたくさんの人に読まれてほしい本。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2011年11月12日
読了日 : 2011年11月12日
本棚登録日 : 2011年11月12日

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