時雨みち (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1984年5月29日発売)
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本棚登録 : 604
感想 : 48
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この本の中には、30ページくらいの短編がぎっしり!短編てんこ盛り(笑)
物語の種類も様々で、隠密の話とか、女のしたたかさとか、男が昔捨てた女への責任感?とか(まぁ男が勝手に後で反省し、捨てた女に憐憫の情でもって会いに行く、みたいな)いろいろだった。
いろんな話を読んでいて思った。
やっぱり悪いことは出来ないもんだ、ってことと、幸せと不幸せは紙一重で、何かを得ようとしたり、成功するため飛躍しようとするときは、それまで大事にしてきたものも捨てざるを得ないことが多く、それは後になってから鈍い痛みとなって自分を責める。
この本の中で私が特に気に入った話は「山桜」と「おさんが呼ぶ」。
「山桜」は・・・男と女の出会いの皮肉、ニアミスしながら結ばれなかった切なさが描かれている。
嫁いだ家に馴染めずに居たある日、墓参りの帰り道に野江は、山桜の下で、以前自分に求婚した男と会う。
彼女が手の届かなかった桜の一枝を男は難なく手折ってくれて。
たったそれだけの一度きりの二人の出会い、そこから始まる野江の淡い恋心と悔恨。
自分が既に引き返せない道にいることがわかっているだけに、救われない野江の悲しみ。
この物語の冒頭で二人が出会う、その情景があまりに美しく
それだけにすれ違い、悲恋に終わる二人の恋が儚くて悲しい。
「おさんが呼ぶ」は、口が利けないわけではないのに、極端に無口な女、おさんの物語。
彼女が奉公している店に商談をまとめるためにやってきた紙漉屋の男に、おさんは恋をする。
暫く逗留した男が同業の商売敵に顧客を取られ、故郷へ帰ることになったとき・・・
そこで初めておさんはその男に恋している自分に気づき、追い駆けながら「待ってください」と叫ぶ。
その瞬間の彼女の声の表現が凄くいいんだなぁ(しみじみ)
まるでおさんの声が耳に響いてくるようで・・・
藤沢周平の書く話の中では、珍しくハッピーエンド。(^o^*
あぁ、だから気に入ったのかもしれないな(笑)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2011年6月23日
読了日 : 2010年2月24日
本棚登録日 : 2011年6月15日

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