「私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。」
装丁も然ることながら、冒頭のこの一文に異様な空気を感じ取る。その予感は正しく、この物語には世間一般からかけ離れた倫理観を持つ父娘の世界が詰まっていた。読後もしばらく引きずる。近親相姦、殺人、はたまた家族愛?児童虐待?背徳的な内容に嫌悪感を覚えつつも、家族の定義ってなんだろう、どこから歯車が狂ったのか、とか答えの出ない問いが延々と頭をもたげて離れてくれない。
9歳で家族を失くし、親戚である淳悟に引き取られてから、故郷を捨て、淳悟と離れようと決意するまでの経緯が、逆順の時系列で描かれている。この遡る構造が非常に巧みで、伏線を一つ回収しては新たな謎が鏤められるため止まらない止まらない。また、章ごとに一人称が変わることも、物語に厚みを増す材料になっている。
以下章ごとに気になった点。
『第1章 2008年6月 花と、ふるいカメラ』
結婚前夜。淳吾が花に手渡したふるいカメラ。花はなぜ淳悟のことを、「おとうさん」「淳悟」「私の男」とコロコロ呼び名を変えるのか。
『第2章 2005年11月 美郎と、ふるい死体』
霊感があるという美郎が、花の家で見たもの。美郎が無職だという淳悟に問いかけた、「毎日、いったいなにをしてるんですか」に対する答え。「……毎日、後悔」いったい何に後悔?
『第3章 2000年7月 淳悟と、あたらしい死体』
第二の殺人。二人の狂った倫理観がむき出しになる。「身内しか愛せない人間は、結局、自分しか愛せないのと同じだ。」
『第4章 2000年1月 花と、あたらしいカメラ』
第一の殺人。「親子のあいだで、しちゃいけないことなんて、この世にあるの?」「世の中にはな、してはならんことがある。越えてはならん線がある。神様が決めたんだヨォ」
海と陸の境目、あの世とこの世の境目、してはいいこととしてはならないことの境目。流氷とのコントラストがすごい。
『第5章 1996年3月 小町と、凪』
淳悟を愛した二人の女。私の命は私だけのものだという小町に、「わたしはね、おとうさんのものだから。殺されたって、ぜんぜんかまわないんです」と言ってのける花。花の子育てにいろいろなものを奪われていると思っていたけれど、花から何かを奪っていることに気づく。
『第6章 1993年7月 花と、嵐』
花と淳悟の出会い。津波で9歳まで過ごした家族と別れた花は、一緒に死ねなかった家族を憎み、淳悟と離れたくないと感じるようになる。花を「血の人形」として扱い、母を求め、それを受け入れた花。二人の異様な関係のスタート。
映画版の淳悟は浅野忠信。切れ長の目、痩せて長身、女にだらしがない、実社会から浮いてる・・・イメージ合いすぎてる!!
- 感想投稿日 : 2016年9月23日
- 読了日 : 2016年9月23日
- 本棚登録日 : 2016年9月21日
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