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坊っちゃん (岩波文庫)についてのayatoraさんのレビュー


坊っちゃん (岩波文庫) 558人が登録 ★3.47

著者: 夏目漱石 
本 / 岩波書店 / 173ページ / 1989年05月発売

レビュー by ayatoraさん

文学   読み終わった  読了日 : 2010年09月23日  5  登録日: 2010年09月23日

会社員生活が始まって半年が経ったいま、改めて漱石を読み直している。この頃、会社という組織に生きる人間について思うことがある。ふと、四国の中学校の人間模様を描いた「坊っちゃん」を読みたくなった。今なら、もっと良く理解できる気がして…。
どんな教科書にも載っているであろうこの作品は、こういう話だったのかと、目から鱗が落ちる思いだった。大体、私はこの作品の何がそんなに「国民的に」高い評価を得ているのか不思議だった。中学や高校で「坊っちゃん」を読んだところで、面白いと思うほうが変わってるのではないだろうか。痛快無比な悪人退治の物語ならば、もっとスケールの大きな冒険小説がいくらでもある訳で、わざわざ明治の文豪が愛媛を舞台に書いた小説を読む必要はない。もちろん、この作品は単純な悪人退治の話などではないのだが。
「女のように優しい声」を出し、表向きは親切を装いながら腹の底で奸計を企んでいる赤シャツは、嫌な奴には違いないのだが、坊っちゃんより遥かに上手で雄弁だ。こういう「大人」を前にすると、坊っちゃんのせっかちで短絡的な欠点が非常に目立つ。世の中を賢く渡っていくには、赤シャツのように腹黒い方が良いのだろう、と全く面白くもない結論に至る。
問題は、そんなことで良いのか、否、良いはずがないじゃないか、という自分の内なる反骨精神がこの作品を読むほどにむくむくと姿をもたげてくることだ。赤シャツのような人間を認めることはどうしてもできない、という拒否の意思がいつの間にか強固になっていることに、我ながら驚く。
私はまだ社会人になって半年の、「坊っちゃん」と変わらない立場の人間だが、やっぱり赤シャツは嫌いだ。きれいごとを並べ立て、自分を何やら高尚な存在に見せかけながら、陰では汚いことをやっている(ただし本当に汚いことをしているのか、証拠を残さないのでわからない)、そんな卑怯な人間を良いと思うはずがない。
だけど赤シャツはただの恰好つけだから、まだかわいげがあると思う。これで赤シャツが開き直って、自分の腹黒い性格を認めるようになったら、かなり厄介だ。
結局、坊っちゃんは山嵐とともに中学を去るけど、これでハッピーエンドというわけではない。老獪で知恵のある大人に暴力で復讐したところで、対決に勝利したのは赤シャツの方なのだから。
願わくば一人でも多くの坊っちゃんがそのままでいてくれること…それが本人の幸せになるかどうかは、知らないが。 レビュー登録日 : 2010年09月24日


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