数年前にインドに行った時、ムンバイをもっと見ておけばよかったな、というのが第一の感想。
大きな街はムンバイしか寄らなかったんだし。
しかし、言うまでもなく、なにしろこの街はすさまじかった。
最初の日にインド門の前でタクシーを降りた瞬間、目の前にはにこにこ笑いながら手を差し出すヒジュラ(あるいはゼナナ)がいた。
わたしは、この作品において多くの事件が起こる場所であるスラム街にもレッドライトディストリクトにも、近寄ってさえいない。
それでも、インドのインド的部分は、わたしを十分おびえさせたり神経をすり減らしたりした。
主人公のファルークは、確かにこの国で生まれはしたものの、青春時代をヨーロッパで、現在は生活拠点をカナダのトロントに置いている。
どこにいても移民、どこにいてもストレンジャー。
寂しさ、不安、拠りどころのなさ。
執拗なくらい丹念に描かれるファルークのこういった心境には、どうしようもなく惹かれてしまう。これは昔からだなあ。
異国でたったひとり、とはどういう感じなのか?
また、このような強烈な国を自分のルーツとして持つことを、自分に当てはめて想像してみる。
アーヴィングの作品にはしばしば孤児が登場するけれど、本物の孤児(ガネーシャやマドゥ)もいれば、ファルークやマーティンのように孤児的状況もある者もいる。
訳者解説にもあったけれど、インドはアーヴィングの小説世界を現実に映し出すためにぴったりなかたちをしているのだと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2010年6月17日
- 読了日 : 2010年6月17日
- 本棚登録日 : 2010年6月17日
みんなの感想をみる